キャラクターの商標登録と保護のポイント
日本は、世界有数のキャラクター大国です。
「日本人の約80%が、キャラクター好き」だと言われています。
近年は、「くまモン」や「うなりくん」などの「ご当地キャラクター」が人気です。
独自のキャラクターを制作する市区町村も、実際に増えているようです。
また、企業がオリジナルマスコットを作って、商品やサービスの宣伝・広告役に起用する例も多く見受けられます。
一方で、このようなマスコットキャラクターたちが人々に愛され、人気や顧客吸引力を蓄積すればするほど、それに便乗しようとする者が必ず現れます。
たとえば、勝手にキャラクターを模倣・複製・改変されたらどうでしょうか?
大切なキャラクターが、関係のない他人に模倣・複製・改変されて使われれば、当事者はもちろん、消費者にも不利益や損害が生じます。また、元のキャラクターの信用も傷付けられてしまいます。このような他人の行為は、何としてでも阻止する必要があります。
そこで役に立つのが、知的財産権という権利です。
その中でも、商標権を生じる「商標登録」は、保護の手段の一つとして活用し得ます。
本ページでは、知的財産権によるキャラクター保護の手段とそのポイントを概観して、特に、商標登録による保護について解説いたします。
1.キャラクターの保護の対象とは?
「キャラクター」と言っても、その概念は様々です。
そこで、まずは保護対象として考えられ得るものを見ていきましょう。
一般的に、キャラクターの要素には、次のようなものがあると考えられます。
(2)名前・名称(ネーミング)
(3)個性などのキャラ設定
2.キャラクターの保護の手段
それでは、上記の要素ごとに、知的財産権法による保護の方法を見てみましょう。
(1)絵柄・イラスト
① 著作権による保護
美術の著作物として、「著作権」による保護を受けることができます。
著作権は創作と同時に発生しますので、登録手続は不要です。
なお、著作権の発生に「創作レベルの高さ」は求められません。
幼児の描いた絵であっても、そこに思想や感情が創作的に表現されていれば、著作権が発生します。絵柄・イラストの保護は、著作権によることが基本となります。
②商標権による保護
商標として使用される場合、「商標権」による保護を受けることができます。
「商標」とは、自分と他人の商品やサービスを識別するための標識です。
つまり、商品やサービスに使用されるものが、「商標」です。
キャラクターの絵柄・イラストも、商標になり得ます。
商標権の取得には、特許庁で「商標登録」をする必要があります。
ただし、商標登録は、申請(出願)をすれば必ず認められるわけではありません。
特許庁の所定の審査にパスすることが条件となります。
たとえば、共通する商品・サービスの分野で、すでに他人によって同一・類似の商標が登録されているような場合には、商標登録は認められません。また、申請した商標が、有名・著名キャラクターの絵柄やイラストを想起させるようなものである場合も、基本的に登録は拒絶されます。
「商標登録とは?」
③意匠権による保護
物品のデザイン(意匠)として、「意匠権」による保護を受けられる余地があります。
意匠権の取得には、特許庁で「意匠登録」をする必要があります。
商標登録と同様に、特許庁の審査にパスすることが、意匠登録の条件となります。
たとえば、意匠登録が認められるためには、新規性(そのデザインがこれまでになかった新しいものであること)や創作非容易性(そのデザインが当業者に簡単に創作できないこと)等が必要です。よって、その意匠がすでに広く一般公開されているような場合は、基本的に登録は難しいと言えます。
ケースとしては限定的と考えられますが、たとえば立体的なキャラクターを、人形やフィギュアを物品として意匠登録できる余地もあると言えるでしょう。
④不正競争防止法による保護
キャラクターの絵柄・イラストが、商品等表示として有名になっている場合や、他人がこれらを商品形態として模倣したような場合には、「不正競争防止法による保護」も受けられる余地があります。
ただし、著作権や商標権のように、何らかの「権利」を根拠とするものではありませんので、基本的には裁判で争うことになり、より手間や労力がかかる手段といえます。
(2)名前・名称(ネーミング)
キャラクターの名前・名称は、基本的に、上述の①著作権や③意匠権で保護することはできません。
商品やサービスの商標として使う場合には、商標登録を行ない、②商標権による保護を受けるのが主な保護手段となります。
なお、キャラクターの名前・名称が、商品等表示として有名になっている場合には、④不正競争防止法による保護も受けられる余地はありますが、絵柄・イラストの場合と同様に、そのハードルは高いと言わざるを得ません。
(3)個性などのキャラ設定
空が飛べる、某星の王子である、指先からビームが出せる、未来からやってきた、などといった、いわゆる「キャラ設定」は、アイデアにすぎません。
よって、表現を権利の対象とする①著作権では、創作的な表現を離れて、これ自体を単独で保護することはできないと考えられます。
また、②商標権、③意匠権、④不正競争防止法によっても、このようなキャラ設定のみを単独で保護する余地は、基本的には「まずない」と言わざるを得ません。
3.キャラクターの商標登録のメリットとは?
さて、キャラクターの保護手段について一通り見てきましたが、中でも現実的なのは、「著作権」と「商標権」による保護と言えそうです。
では、これらの違いについては、どう考えれば良いのでしょうか?
保護の基本は著作権による
上述のように、キャラクターの絵柄・イラストについては、「著作権」によって保護を受けることができます。実務上も、キャラクターの保護は、著作権によるのがオーソドックスな方法です。
著作権の発生には登録手続は必要なく、権利を保持するために費用もかかりません。
特許権や意匠権とは異なり、他人の使用が「業として」であるという要件もありませんので、権利行使ができる範囲も比較的広いと言えるでしょう。
一方、著作権での保護は手軽な反面、「権利がやや不安定」という問題があります。
これは、著作権が創作により自然発生する「相対的な権利」であることが要因です。
似たような創作物を、依拠することなくそれぞれが独自に作り上げた場合には、どちらにも適法な著作権が発生するのです。
ですから、たとえば、他人が後から似たキャラクター絵柄を創作したとしても、これを「著作権侵害だ!」と主張するためには、その他人が主張の元となった絵柄に依拠して(=知って、アクセスして)創作をしていることが必要となります。少なくとも、その他人が元の絵柄にアクセスが可能であったという事実が推認できることが必要でしょう。
逆に言えば、かなり似た絵柄であっても、その他人が独自に創作をしたものであって、たまたま自分の絵柄にそっくりになったという場合には、基本的に著作権侵害を問えないことになるのです(なお、キャラクター絵柄が「まったく同じ」場合は、このようなことはまずないであろうとは思われます)。
また、著作権侵害を主張するためには、自分がその絵柄の著作者(創作者)であり、著作権を有していることを証明する必要があります。そして、実際問題として、自分の方がその他人よりも先に創作していることも、証明する必要があるでしょう。
ですが、創作過程や状況により、これらの証明が困難な場合も少なくないでしょう。
このように、著作権はお手軽に保護が受けられるものの、状況によって、権利行使がうまくいかないケースも考えられます。キャラクターの絵柄・イラストの保護は、著作権による保護がかなり有効ではあるものの、「必ずしも万能ではない」と言えそうです。
商標権で保護を補強し得る
そこで、著作権の弱点を補完して、保護をより強固にするため有効と考えられるのが、キャラクターの商標登録(商標権の取得)です。
商標権は、著作権とはちがい「絶対的な権利」です。
権利行使にあたって、他人が後から「独自に創作しているという事情」は、基本的に問題とはなりません。
また、特許庁で設定登録をするため、権利の発生や権利者であることの証明も容易です。
このように、商標権は、上述の著作権の弱点をカバーすることができると言えます。
ただし、商標権にも特有の弱点はあります。
たとえば、商標権が有効なのは、他人がキャラクターの絵柄・イラストを「商品やサービスの識別標識として使用」している場合、かつ「業として使用」している場合に、基本的には限られます。よって、他人が勝手にキャラクターの絵柄・イラストを使っていても、必ずしも商標権が使えるとは限らないという点には、注意が必要です。
基本的には、相手が事業者である場合に有効な保護手段と言えるでしょう。
また、商標登録において指定した商品・サービスとは全く分野の異なる商品・サービスに他人が商標を使っている場合には、基本的に商標権の効力は及びません。
つまり、商標権の効力範囲は、かなり限定されるということです。
しかし、それでも条件がそろえば、商標権は非常に強力な権利となります。
また、商標登録をしておけば、その事実は公開されますので、少なくとも他人の無断使用を牽制させる効果もあります。
なお、上述のように、キャラクターの名前・名称は著作権では保護ができませんので、これらを商品やサービスの「商標として使用」する場合には、商標登録を受けることがベストな保護方法ということになります。
このように、キャラクターの保護の補強には、商標登録が有効な手段となり得ます。
特に、商品やサービスの営業マン的な役割を果たす企業キャラクター、地域振興のためのご当地キャラクターの場合は、商標登録に向いていると言えるでしょう。
キャラクターを「商標」としてご活用される皆様には、ぜひ商標登録をご一考いただくことをお勧めいたします。
↑当事務所のオリジナルキャラクター「商標仮面」。
イラストは著作権で保護。名称は商標登録をして商標権で保護しています。
4.キャラクターの商標登録戦略
ところで、いざキャラクターの商標登録を考えた場合、1つの壁にぶつかります。
それは、「商標はどのような態様とするべきか?」という問題です。
商標登録は、1つの申請(出願)につき、1つの商標とする必要があります。
つまり、商標の数の分だけ、申請をする必要があるということです。
しかし、キャラクターには絵柄があり、名前もあります。
しかも、通常、絵柄は複数のパターンが存在しているでしょう。
もちろん、実際に商標として使う絵柄を優先して申請すべきではあります。
とはいえ、複数の絵柄を個別に使う場合も少なくないはずです。
これらの全てを申請・登録しようとすると、莫大な費用がかかってしまいます。
とても現実的な話ではありません。
ですから、このような費用の節約や、保護の実効性を考慮した、戦略的な視点が必要となってきます。
ここで、「商標はどのような態様とするべきか?」という問題については、一般的に次のような対応が考えられるでしょう。
(2)絵柄や名前のうち代表的なものを、1つずつ個別に申請・登録する
(3)絵柄と名前を、上下併記で表し、1つの結合商標として申請・登録する
(4)絵柄の複数のバリエーションを、1つの結合商標として申請・登録する
これらのうち、保護がもっとも強固となるのは、当然(1)の方法でしょう。
ただし、この場合は上述のように、その数の分だけ費用が発生することになりますので、よほど金銭的な余裕がない限りは、現実的ではありません。
(2)は、(1)のうち重要なものに数を絞る、というやり方です。
たとえば、使用頻度が特に高いものを優先的に対象とすることが考えられます。
費用面で問題がなければ、現実的な方法の中では理想の手段と言えそうです。
(3)は、費用対効果のバランスを考慮した方法と言えるでしょう。
実務上でも、よく見かけるオーソドックスな方法となっています。
ただし、絵柄と名前の要素を結合させて1つの商標としておりますので、それぞれの要素部分と他人の商標との類否判断においては、その類似範囲は狭くなる可能性があります。また、商標登録後に、絵柄と名前を分離させて使用していると、不使用取消審判で登録が取り消されてしまうリスクもあります。
(4)についても、基本的に(3)と同様のリスクがあります。
以上のように、いずれの方法によっても、それぞれメリットとデメリットがあり、「商標はどのような態様とするべきか」については、申請前に慎重な検討が必要です。
どのような状況で保護したいのか、どのように使用していくつもりなのか等をよく検討の上で、ご自身にとって最適となる態様で商標登録を受けるのが望ましいと言えます。
また、キャラクターの商標登録にあたっては、商標の態様だけではなく、指定商品や指定役務をどのように記載するかといった問題や、戦略上、単区分出願とするか多区分出願とするかといった点なども、慎重に検討しなくてはなりません。
これらの検討を、商標登録に不慣れな方がご自身で進めるのは難しいと思います。
ですから、キャラクターの商標登録を検討する場合は、まずは専門家である「弁理士」にご相談されることをお勧めいたします。
なお、キャラクターの絵柄・イラストを商標登録する場合には、著作権者との間で、権利処理や承諾について話をつけておくことも大切です。
5.おわりに
キャラクターの保護は、基本的には著作権によるのがオーソドックスな方法です。
一方で、商標登録によって、キャラクターをより強固に保護できる場合があります。
商標登録をするメリットとデメリット、そのキャラクターが商標登録にむいているのかどうか等を考慮した上で、要否を検討することが大切となります。
この機会にぜひ、大切なキャラクターの商標登録をご検討下さい。
なお、当事務所でも、企業キャラクターや、ご当地キャラクターの商標登録のご相談・ご依頼を承っております。
当事務所は、商標専門の特許事務所です。
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