商標リスクのあれこれ
「ビジネスにはリスクがつきもの」とは、よく言われます。
そのビジネスで、商品やサービスに使われる「商標」。
このような商標にも、実は多くの「リスク」が存在しています。
そして、それらの商標リスクは、事業者の皆様が想像している以上に多種多様と言えるでしょう。中には、経営状態を根底から覆すような深刻なものもあるはずです。
商標に関するトラブルの多くは、「知らなかった」ことが原因です。
事前にリスクを知っていれば、適切な対策により回避できるものも少なくありません。
そこで、商標業務を専門とし、「商標セキュリティ®」を重視している当事務所では、商標に関連する様々なリスクについて、「商標リスクのあれこれ」と称して本ページにまとめました。事業者の皆様には、ぜひ参考にしていただき、種々の商標リスクをしっかりと「知る」ことで、無用なトラブルを回避してほしいと願います。
1.商標リスク総論
2.商標リスクの具体例
(1)商標登録をしていないことで生じ得るリスク
(2)商標登録をすることに関連して生じ得るリスク
(3)商標登録後に生じ得るリスク
3.その他に注意したいリスク
4.まとめ ~商標リスクを少しでも減らすために~
→ 当事務所がお手伝いできること
1.商標リスク総論
商標に関連するリスクとしては、大きく以下のように分類されると考えます。
(2)商標登録をすることに関連して生じ得るリスク
(3)商標登録後に生じ得るリスク
商標リスクについては、やはり主に「商標登録」が、根底として何らかの形で関わってくることは否定できないでしょう。
(1)の「商標登録をしていないこと」が大きなリスクになるという点は、おそらく多くの事業者の皆様も容易に想像ができるかと思います。一方で、注意が必要なのは、(2)の商標登録をしようとする場面や、(3)の無事に商標登録をした後であっても、生じ得るリスクは決して少なくないという点です。
商標登録は、登録すればそれで終わり、登録できれば万事OKというわけではないのです。事業者の皆様には、この点を特に意識していただきたいと思います。
2.商標リスクの具体例
それでは、具体的な商標リスクについて、それぞれの分類ごとに見てみましょう。
(1)商標登録をしていないことで生じ得るリスク
他人の商標権を侵害するリスク
数ある商標リスクの中でも、もっとも深刻なリスクの一つと言えます。
商標登録をしていないと、その商標を安心・安全に使うことが保証されません。
自身の使っている商標や、それに似ている商標が、他人によって商標登録されている可能性も十分にあり得ます。そして、そのような状況で商標を使えば、その他人の商標権を侵害することになってしまいます。
たとえ「うっかり」でも、他人の商標権を侵害してしまうと大変なことになります。
商標権侵害で「侵害しているとは知らなかった」という言い訳は、通用しません。
他人の商標権を侵害すると、使用差止や損害賠償などが求められます。
また、商標権侵害は、刑事罰の対象にもなっています。
何より恐ろしいのは、顧客や取引先に、その事実を知られることでしょう。
これにより、自身の社会的信用が失墜することは避けられないと考えられます。
その結果、廃業や倒産に追い込まれる可能性も否定できません。
・商標調査をしていない場合
・商標登録や商標調査について知らない場合
<本リスクへの対策>
事業で使う以上、商標については、1日も早く商標登録しておくのがベストです。
ただ、短期間しか使う予定がないとか、現在は予算的に厳しいという事情で、躊躇する場合もあるでしょう。そういった場合は、少なくとも、他人の商標権を侵害しないことを確認するために、「商標調査」だけは実施しておくべきです。商標調査は、その商標を実際に使い始める前に行なってください。
精度の高い商標調査をするためには、専門的な知識や経験が必要です。
自力で済まそうとせずに、必ず専門家に依頼することをお勧めいたします。
なお、調査結果に問題がなくても、それはあくまで調査時点での話にすぎません。
将来的にはどうなるかわかりませんので、やはり商標登録をしておいた方が安心です。
何度も繰り返し商標調査を依頼するより、さっさと商標登録をした方が、長い目で見れば費用はかからないでしょう。
自分の商標を勝手に使われる、マネされるリスク
こちらも、もっとも深刻なリスクの一つと言えるでしょう。
商標登録をしていないと、他人によるその商標の使用をやめさせることが困難になります。
他人による使用やマネを放置すれば、当然、自身の売上の減少につながります。
また、商品等を間違えて購入した顧客からクレームが来るなど、自身の社会的信用に影響が出ることも避けられません。
さらに、模倣品対策の観点からは致命的となり、後述の「ブランド毀損」にもつながってしまいます。
<本リスクに特に注意が必要なケース>・商品やサービスの売れ行きが良くなってきた場合
・ニセモノが特に多い分野の商品を取り扱っている場合
<本リスクへの対策>
ある意味、致命的なリスクともいえますので、やはり商標登録がベストです。
大切な顧客の不利益を防止するという意味でも、商標登録は積極的に検討すべきでしょう。
本リスクは、商品やサービスの売れ行きが好調で、事業が軌道に乗り始めてから特に起こりやすいと考えられます。後述のように、他人によって、その商標を先に出願・登録されてしまうと手遅れになる場合もありますので、1日も早く出願をすることがお勧めされます。
自分の商標を他人に出願・登録されるリスク
商標登録をしていない場合に、比較的よくあるリスクと言えるでしょう。
商標登録は、「早い者勝ち」がルールです。
先に使っている人ではなく、先に特許庁に出願をした人に商標登録が認められるというのが原則です。よって、自身が商標登録をしていない場合、その商標を他人が出願すると、基本的には商標登録が認められてしまいます。
他人に商標登録が認められると、当然ながら、商標権が発生します。
それ以降に、その商標を無断で使えば、商標権侵害となってしまう可能性があります。
すると、結果として、その商標を使い続けることを断念せざるを得なくなります。
悪意による場合など、ケースによっては、その他人の登録を取消・無効とすることで救済されることもあります。しかし、簡単に認められるわけではないのが実際のところです。また、取消・無効にするための特許庁への手続等には、それなりの時間・費用・労力を要します。
<本リスクに特に注意が必要なケース>・商品やサービスの売れ行きが良くなってきた場合
・出願をする前に、プレスリリースなどで周知した場合
<本リスクへの対策>
運が良ければ、いつまでも問題にはならないリスクではあるかもしれません。
しかし、いざ他人に大切な商標を先に出願・登録されてしまうと、対応には多大な労力や時間を要することになります。
どうしてもの場合は、商標を変更すれば解決する問題ではありますが、商標の変更も想像以上に簡単ではありません。それ以前に、感情面で納得できないことでしょう。なにより、商標の変更は、これまでに築いてきた信用やブランド価値を無に帰してしまいます。
楽観的な考えはせず、やはり1日も早く自身が出願手続をすることがお勧めされます。
(2)商標登録をすることに関連して生じ得るリスク
炎上騒動に巻き込まれるリスク
近年では、ある意味もっとも楽観してはいけないリスクと言えるかもしれません。
法律的・制度的な面というよりは、人々の感情的な面から生じ得るリスクと言えます。
よくあるのが、公共財産的な名称や流行語などを商標登録しようとして、世の中から大きな非難を受け、主にインターネット上で炎上騒動に発展するケースでしょう。
最近の騒動では、「ゆっくり茶番劇」、「アマビエ」、「ぴえん」、「そだねー」などの例が挙げられます。
社会的な騒動になった商標について、特許庁は登録を認めないのが一般的です。
この段階で、商標登録はあきらめた方が良いと言えます。
しかし、それ以上に深刻なのが、世間からの非難への対応でしょう。
また、対応のいかんを問わず、「けしからん会社」などといった世間のマイナスイメージが生じて、社会的信用を一気に失ってしまう可能性もあります。
多くは不心得な欲による自業自得のケースと言えるものの、その影響は想定外に大きいと言えるはずです。「軽い気持ちで出願しただけで、とんでもない目に遭う」こともあり得ることを、くれぐれも忘れてはなりません。
<本リスクに特に注意が必要なケース>・流行語を商標登録しようとする場合
・「他人のもの」を商標登録しようとする場合
<本リスクへの対策>
事業者に良識があれば、このようなトラブルを起こすことはあまり考えられません。
商標登録とは、商標に蓄積した事業者の信用や需要者の利益を保護するためのものであって、「金儲け」の道具ではないとくれぐれも理解しておくことです。
ただ、ビジネスとなると、なぜか良識が歪む人が一定数いるのも否定できません。
本人からすれば、「まったく悪気はなかった」というケースもあるでしょう。
やはり、商標登録を検討するにあたっては、事前に一度は専門家に相談するなど、第三者の意見を聞く機会を作るというのが、もっとも有効な対策になると思われます。
なお、相談をする弁理士などの専門家は、慎重に選ぶことが大切です。
ご自身にとっては耳が痛いことかもしれませんが、「やめましょう」とか「やめるべき」と言ってくれる専門家の方が信用できます。依頼がなくなれば1円の利益にもならないのに、そのように言うのはよほどのことだからです。依頼人のことを思い、誠意がなければできることではありません。
一方、儲け主義の専門家であれば、自分には責任はないと考えて、依頼人の気が変わる前にいち早く出願を進めてしまおうとすることでしょう。機械的に仕事をするだけの専門家ではなく、自分ごとのように考えてくれる誠実な専門家を選ぶことです。
商標登録を「失敗」しているリスク
商標登録は、ただ登録をすればOKという単純なものではありません。
いざという時に役に立つ、「適切な商標登録」ができてこそ、意味があります。
商標登録を「失敗」していることは、将来的にも大きな潜在リスクとなります。
商標登録の「失敗」とは、主に、商標登録をする① 商標が適切ではない、②指定商品・指定役務が適切ではない、ことが言えるでしょう。失敗の程度は様々ですが、最悪の場合、「まったく意味のない商標登録」をしているという笑えないケースも、実際には少なくありません。
多くは、商標実務に関する知識不足が原因です。また、弁理士などの代理人に依頼している場合であっても、代理人の実力不足や検討不足、相互のコミュニケーション不足が原因で起こり得ます。
特許庁は、願書の記載内容を審査しますが、その内容が出願人にとって適切かどうかという点については関知しません。よって、願書の記載内容が前提として間違っていても、登録条件を満たしていれば、商標登録自体は認められるのです。
ですから、たとえ商標登録を失敗していても、多くのケースでは、本人がその事実に気付くことはありません。弁理士などの代理人に依頼している場合も同様です。いざ何かトラブルが起こった際に、ようやく失敗に気付いて慌てるというのがお決まりのパターンです。この点が、もっとも怖い点と言えます。
単に「商標登録ができたかどうか」という事実が大切なのではなく、「適切な商標登録ができたかどうか」という点が重要であることを、常に意識することが大切です。
<本リスクに特に注意が必要なケース>・実力や検討が不十分な代理人によって、商標登録がされている場合
・代理人とのコミュニケーション不足のまま商標登録がされている場合
<本リスクへの対策>
商標登録の願書の記載内容はシンプルであるため、一見すると簡単そうに感じられます。専門知識のない事業者の方々が、経費節減のために「自力でもできそう」と考える気持ちも、わからなくはありません。
しかし、世の中の多くの誤解と同様、「シンプル=簡単」というわけではありません。
業種にもよりますが、この場合の「失敗確率」は、高まると言わざるを得ません。
やはり、弁理士などの専門家に依頼することが、本リスクへの一番の対策となります。
もっとも、弁理士の知識や経験もピンキリであることには注意が必要です。
また、最近では、格安で時間をかけずに商標登録の依頼ができることをアピールしている弁理士も少なくありません。依頼人にとっては魅力的に感じられるかもしれませんが、そのような弁理士に依頼した場合に、十分な検討やコミュニケーションの機会はあるのかといった点には、注意する必要があるでしょう。弁理士などの代理人は、慎重に選ぶこともポイントです。
商標登録を取消・無効にする攻撃がなされるリスク
その商標を商標登録することで、他人がどう考えるか、どのように感じるかについて、想像力を働かせることも大切です。
特に、ライバルとなる事業者を意識する必要があります。
諸々の事情で、「その商標登録は見過ごせない」と思われてしまうこともあるでしょう。
その場合、商標登録を取消・無効にする攻撃がなされるリスクが懸念されます。
よくあるケースとしては、他人の商標を一部に含んだ商標を商標登録した場合、特許庁が他人の商標とギリギリ「似ていない」と判断したような商標を商標登録した場合などが挙げられるでしょう。また、前述のように、炎上騒動の対象となった商標の商標登録に対しては、非常に高い確率で取消・無効が求められているのが現状です。
せっかくした商標登録を取消・無効にされるのは、大きな不利益となります。
しかし、「リスク」として特に留意しておくべきことは、このような攻撃が他者によってなされた場合、最終的に取消等を回避できたとしても、対応の手続には多大な時間や労力が必要になるという点です。
通常、弁理士などの専門家に依頼しないで、自力で対応するのは難しいでしょう。
よって、決して安くはない依頼費についても、負担をする必要があります。
そして、もしも最終的に登録が取消・無効となれば、それまでにかけた時間・費用・労力は全て無駄となってしまうことになります。
・他人の商標と類似性が高い商標の商標登録に成功した場合
・炎上騒動の対象となった商標を商標登録した場合
<本リスクへの対策>
単に「商標登録ができるかできないか」という観点からだけではなく、その商標を商標登録することによって、ライバル企業等の他人がどのような印象を抱くかといった点なども考慮した上で、商標を決定することが大切と言えるでしょう。
ある商標について商標調査をした結果、「類似性はかなり高いものの、商標登録が必ずしも認められないとは言い切れない」他人の商標が見付かることは少なくありません。こういった場合に、将来的なトラブル回避のために、その商標の採用はあえて控えるということも、本リスクの対策としては有効です。
本リスクの対策としては、弁理士などの専門家選びも重要となってきます。
制度や法律の観点からだけでなく、このような現実的な問題としての観点からもアドバイスをしてくれる専門家に、商標登録を依頼したいところです。前述のように、自らの利益を顧みず「やめましょう」とか「やめるべき」と言ってくれる誠実な専門家が理想です。
弁護士と同様に、実は弁理士にも「トラブルが多い方が利益になる」一面があります。
儲け主義の弁理士であれば、そのようなリスクに気付いても黙っているかもしれません。
やはり、自分ごとのように考えてくれる、誠実な弁理士に依頼したいところです。
(3)商標登録後に生じ得るリスク
商標登録に「不足」が生じているリスク
事業が順調な場合や、軌道に乗った場合に生じやすいリスクと言えます。
ある商標を使った事業が順調な場合、さらなる事業展開、商品・サービス展開をすることは少なくないでしょう。たとえば、① その商標を使った新たな商品・サービスを展開する、② その商標に関連した新たな商標を採用する、等といったことが考えられます。
このような場合に、商標登録に関する手当てを失念していることが少なくありません。
特に、すでに一度商標登録を済ませている場合は、安心してしまって気が付かない傾向があるようです。しかし、既存の商標登録で、必ずしも新しく展開する商品やサービスまでカバーができているとは限りません。
既存の商標登録でカバーができていなければ、商標登録に「不足」が生じている状態です。このような不足は、深刻な「(1)商標登録をしていないことで生じ得るリスク」にそのまま繋がりますので、要注意です。
<本リスクに特に注意が必要なケース>・商標登録後、関連する新たな商標を採用している場合
・商標登録後、かなりの時間が経っている場合
<本リスクへの対策>
すでにした商標登録の範囲と現在の事業内容について、適宜見直すことが大切です。
特に、商標登録をしてから長い年月が経っている場合は、要注意と言えます。
もっとも理想的なのは、さらなる事業展開や、商品・サービス展開をする際に、必ず弁理士などの専門家に相談して、リスクチェックを依頼することです。手間や費用はかかりますが、決して小さくはないリスクですから、依頼をする価値は十分にあるでしょう。
なお、前述の「商標登録の失敗」との違いは、事後的な要因でリスクが発生する点です。
もっとも、弁理士などの専門家に依頼して、十分な検討やコミュニケーションを経て商標登録をしている場合、このような将来的な観点も踏まえた上で、登録範囲が定められていることも少なくはありません。これにより、本人が意識しているかどうかにかかわらず、幸いにも既存の商標登録できちんとカバーができているというケースもあります。
このように、「商標登録の失敗」を回避するための対策が、そのまま「商標登録の不足」のリスク回避に繋がる場合もあります。この点からも、やはり弁理士などの代理人選びは重要になると言えます。
商標権の更新を失念するリスク
「うっかり」という点においては、頻発するリスクと言えるかもしれません。
商標登録によって生じる商標権の存続期間は、原則として登録日から10年です。
それ以降も商標登録を維持したい場合、「商標権の更新」をする必要があります。
商標権の更新手続は、所定の期間内に行なうことが必要です。
定められた期間内に更新手続をしなかった場合、その商標登録(商標権)は消滅します。
消滅をすれば、結果として、「(1)商標登録をしていないことで生じ得るリスク」にそのまま繋がることになりますので要注意です。
実際の更新手続は、商標登録をした時期から約10年後にすることになります。
当時はしっかりと覚えていても、忘れてしまうことは少なくないでしょう。
運転免許やマイナンバーカードのような「更新のお知らせ」も、特許庁からは来ません。
特許事務所に商標登録を依頼した場合、更新期限が近付くとお知らせが来るのが一般的です。しかし、10年後にその特許事務所が存続している保証はないため、自身でもしっかり期限管理を行なっておくべきでしょう。
<本リスクに特に注意が必要なケース>・特許事務所に依頼をしていない場合
・商標登録後、かなりの時間が経っている場合
<本リスクへの対策>
自社による商標登録をリスト化するなどして、商標管理をしっかり行なうことが有効です。リストには、更新期限を記載しておいて、定期的に確認するようにしましょう。
特許庁が提供する「特許(登録)料支払期限通知サービス」を利用するのも有効です。
このサービスでは、案件とメールアドレスを事前に登録しておくことで、更新期限が近付いた際に、お知らせメールが配信されます。ただし、約10年後もこのサービスが継続されている保証はありませんし、登録したメールアドレスを自身が使い続けている保証もないと言わざるを得ない点には注意が必要でしょう。
不使用によって登録取消になるリスク
商標登録後に、比較的生じやすいリスクと言えます。
商標登録をした商標(登録商標)を、日本国内で継続して3年以上、一度も指定商品・指定役務に使っていない場合、第三者から「不使用取消審判」を請求されることにより、その(不使用を指摘された)指定商品・指定役務について、登録が取り消される場合があります。
※第三者からの請求が必要で、自動的に登録取消となるわけではありません。
そもそも不要となり使っていない商標であれば、登録取消になってもダメージや影響はほとんどないでしょう。問題は、事業において必要な商標が、想定外の登録取消となってしまうことです。
これは特に、商標登録後、登録商標に変更を加えて使っている場合にリスクが高まります。
「不使用取消審判」で登録取消を免れるためには、登録商標そのものか、それと社会通念上同一と言える商標を実際に使っていることの証明が必要となるからです。よって、変更を加えて使っている商標が、もはや「社会通念上の同一」の範囲を超えて、「類似商標」や「別商標」となっているような場合は、登録取消となるリスクは非常に高くなってしまいます。
事業を長年続けていると、商標の態様が微妙に変化していくことも少なくありません。
登録商標そのものも、同時にどこかで使っていれば問題はないのですが、意外と使っていなかったりします。商標登録後は、このようなリスクがあることも忘れないようにしてください。
・長期間にわたって、登録商標の使用を休止している場合
・指定商品や指定役務を広く指定して商標登録をしている場合
<本リスクへの対策>
登録商標そのものの使用実績があるかどうかを、定期的にチェックすることが大切です。そして、その使用実績の証拠となるものは、適宜保存・保管しておきましょう。
また、登録商標に変更を加えて使おうとする際には、事前に弁理士などの専門家に相談しておくことが理想的です。自分では「これくらいは些細な変更にすぎない」と思っても、商標的には「社会通念上の同一」の範囲を超えて、もはや「類似商標」や「別商標」となっている可能性もあるからです。この点、商標に関する専門的な知識がなければ、判断はきわめて困難です。
第三者からの「不使用取消審判」の請求を回避するためには、登録商標の不使用について疑義を生じさせないことがもっとも大切です。たとえば、インターネット上のサイトや広告物等を少し調べれば、その登録商標の使用は明らかという状態である場合、第三者は審判請求を断念するのが普通です。
なお、2018年より特許庁の審査運用が変更となり、現在では1区分内にかなり広く(類似群22個まで)指定商品・指定役務を含めることができるようになりました。防衛的な観点より、ある程度は広い範囲を指定することが商標登録の定石ではありますが、無駄に広くしすぎるのは本リスクを高める原因ともなりますので、注意した方が良いでしょう。
登録商標を変更使用した結果、他人の商標権を侵害するリスク
商標登録後、商標の態様を変更して使っている場合に、特に注意が必要なリスクです。
商標登録をすると、その商標を指定商品等について独占的に使うことが保証されます。
よって、通常、その使用行為が他人の商標権侵害となることはありません。
しかし、それはあくまで、商標登録をした商標(登録商標)をそのまま使う場合の話です。商標の態様に変更が加えられている場合は、その限りではありません。
商標登録から長い年月の間に、商標の態様が変わっていることも少なくありません。
もし、変更をした商標が、他人の登録商標に似ているものとなっている場合には、商標権侵害の問題が生じる可能性があります。自分では「ほんの少しの変更だから問題ないだろう」と思っていても、専門的に見ると、もはや「別の商標」と言えるケースも少なくありません。
このような場合、上述の「他人の商標権を侵害するリスク」で挙げた深刻な事態となり得るほか、需要者等に混同が生じているような場合は、登録取消となってしまうおそれもあります。
<本リスクに特に注意が必要なケース>・商標登録をしてから長い年月が経っている場合
・登録商標に文字などの要素を付加して使っている場合
<本リスクへの対策>
できるだけ、商標登録をした態様そのままで、商標を使うことが有効です。
変更を加えている場合には、弁理士などの専門家に相談しておくことが理想的です。
上述のように、自分では「些細な変更」だと思っていても、商標的には「社会通念上の同一」の範囲を超えて、もはや「類似商標」や「別商標」となっている可能性もあるからです。その場合、他人の商標権の範囲内に含まれる可能性も否定できません。
他人の商標権を侵害する可能性があれば、すぐにその態様での使用を中止すべきです。
また、現時点での侵害可能性がなくても、「類似商標」や「別商標」となっている場合には、それらの商標についても自身が商標登録をすることを早急に検討することがお勧めされます。
商標が普通名称化するリスク
これまで世の中になかった商品・サービスを扱っている場合に、要注意なリスクです。
今までになかった画期的な商品やサービスを市場で提供すると、それらの商標が、あたかも商品・サービスの普通名称かのように、世の中で認識される可能性があります。一方で、商標法では、商品・サービスの普通名称を使う行為に対しては、商標権の効力は制限されると定められています。
つまり、たとえ商標登録をしていても、その商標が普通名称化してしまうと、他人の使用行為に対して権利行使ができないということになるのです。多少乱暴に言えば、「もはや、商標登録の意味がなくなる」ということです。
その商標が有名になればなるほど、普通名称化のリスクも増大すると考えられます。
他に類のない商品・サービスの商標がある場合には、気を付けたいリスクです。
なお、既存の商品・サービスの分野で、圧倒的な知名度やシェアがあるものについても、その商標がそれらの普通名称であると認識されやすくなるため、注意が必要でしょう。
・それらの商品・サービスが好評で、商標が有名になっている場合
・新聞やテレビなどのメディアでも大きく取り上げられている場合
<本リスクへの対策>
普通名称ではなく、登録商標であることを知らしめる対策が最重要となります。
具体的には、マルアール「®」や商標登録表示をできるだけ併記するというのがメジャーな対策と言えるでしょう。
メディアなどで取り上げられる場合には、登録商標であることがわかる配慮や措置を、先方に求めると良いと考えられます。
3.その他に注意したいリスク
これまでの具体例をご覧になって、「商標リスク」には実に様々なものがあることを、ご理解いただけたのではないでしょうか。ご自身が想像していた以上に深刻なものも、含まれていたかもしれません。
しかし、「商標リスク」は、まだまだ他にも存在しています。
それらのリスクの一部を、最後に簡単にご紹介いたします。
(偽サイト、模倣品、SEOポイズニング)
・外国で事業展開をする場合のリスク
(当該国における商標調査・商標登録の不備)
・商標登録NGのフォントでロゴ等を作成するリスク
(商標登録による規約違反)
・虚偽表示となるリスク
(登録商標に大幅に変更を加えた商標に「®」などを表示する等)
・他の法律違反となるリスク
(不正競争防止法、景品表示法、薬機法等)
・著作権者とトラブルになるリスク
(第三者に発注したイラストやロゴマークの商標登録)
・事後的に、悪いイメージのある言葉と同じ名称になるリスク
(話題となった犯罪グループなどの名称が、自身の商標と同じである等)
4.まとめ ~商標リスクを少しでも減らすために~
以上のように、「商標リスク」は実に多種多様です。
「商標登録をしていないこと」が、大きなリスク要因となるのは間違いありません。
一方で、商標登録をする場面や、商標登録をした後にも、生じ得るリスクは考えられ、商標登録を済ませたからといって、安心できるものでもありません。
商標と付き合っていく上では、我が子のように常に気に掛けることが大切です。
そして、現実で起こり得る商標トラブルの多くは、「知らなかった」ことが原因です。
事前にリスクを知っていれば、適切な対策により回避できるものも少なくありません。
ぜひ、本コンテンツ「商標リスクのあれこれ」を定期的に確認して、ご自身に当てはまるケースがないかをチェックしてみてください。当てはまる場合は、弁理士などの専門家に相談する等、事前の対策を検討しておくことがお勧めされます。
もちろん、事前にリスクを知っていたり、専門家に相談したりしていても、残念ながらリスクを「ゼロ」にすることはできません。それでも、トラブルが生じる可能性を下げることには、間違いなく繋がるはずです。
事業者の皆様が、商標リスクをしっかりと認識することで、将来の無用なトラブルを回避し、健全な事業発展を遂げられることを願っております。
当事務所がお手伝いできること
当事務所では、「商標リスク」の対策につながる各種ご依頼を承っております。
紫苑商標特許事務所は、商標専門の弁理士事務所です。
当事務所へのご依頼・ご相談等は、代表弁理士が丁寧に担当させていただきます。
代表弁理士は、商標専門の弁理士として15年以上の経験がございます。
当事務所は、次の点を業務におけるプロフェッショナルポリシーとしております。
そして、これらの特長が同時に、当事務所の強みにもなっております。
当事務所が承っているご依頼の一例は、以下のとおりです。
詳細につきましては、リンク先のページをご覧ください。
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※サービスによっては、対象者を限定させていただいております。
予めご了承願います。
ご自身が直面・懸念されている「商標リスク」について、「どうすれば良いのかわからない」等でお困りの場合は、取り急ぎ、以下のフォームより弁理士にご連絡いただくこともできます。当事務所で対応可能な場合は、解決のために必要となる当事務所のサービスについて、Eメールにてご案内させていただきます。弁理士からの初回の回答・ご案内は無料です。
※ご連絡をいただいた後で、しつこい営業電話等は行ないません。ご安心ください。
また、弁理士には厳格な守秘義務があり、ご連絡内容が開示されることはありません。