失敗事例4:商標登録出願の時期を誤った失敗
※ご注意:本ページでご紹介するのは、起こり得る失敗を想定した架空の事例です。
実在の具体的な事例をご紹介するものではありません。以上をご了承の上、ご参照ください。
事例の紹介
Y社は、大手大企業で、新しい画期的なサービスを開発した。
Y社は、このサービス名をBと名付け、商標として使用することとした。
現在の利用者からも期待のかかるサービスであり、売り上げも見込めたため、
Y社は一刻も早くこれを世に公表したいと考えた。
そこで、ある日、当該サービス(商標B)について、自社ホームページにプレスリリースを掲載し、
また、マスコミ各社に配布した。商標Bにかかるサービスは、大きく取り上げられ話題となった。
商標Bについては、半年前に弁理士に商標調査を依頼しており、
使用に関して問題がないことは確認済みだった。
そこで安心してしまったためか、商標担当者は商標Bの商標登録を失念しており、
出願手続を行なったのはプレスリリースの1週間前となってしまった。
とはいえ、「プレスリリースまでに商標登録の完了は間に合わなかったが、その前に出願しておけば
他人に抜け駆け登録されることもないし、大丈夫だろう」、商標担当者はそう思っていた。
ところが、その後の審査結果は「拒絶査定」。
どうやら、商標調査実施後、出願手続を完了するまでの間に、
偶然にも同業のZ社が商標Bと同じ商標を出願し、
すでに商標登録を受けているらしいということが判明したのである。
その結果、Y社は、サービス提供開始直前で商標Bの変更を余儀なくされ、
そのために多大な出費を負担することになった・・・。
教訓(当事務所からのアドバイス)
自社商標を外部公表する前に商標登録出願は完了していたけれども、予想外の他人の先願登録の存在によって、
商標登録が受けられなくなった(=その商標を使用できなくなった)という事例です。
事案としては失敗事例3に似ていますが、本事例では、
きちんと外部公表前に商標Bの出願を完了させている点で状況が異なります。
本事例の大きな失敗は、商標調査実施後、約半年もの間、
商標Bの商標登録出願を行なっていなかった点にあるでしょう。
この場合、もはや先の商標調査は何の意味もなしていないと言っても過言ではありません。
商標登録出願は、毎日約300~400件が特許庁に出されています。
つまり、半年間では、実に約6万~7万件もの商標が出願されていることになります。
その中に、商標Bと同じ商標が、先に第三者によって出願されている可能性は必ずしも否定できません。
これだけあれば、もはや偶然とも言えないような気もします。
本事例の場合、失敗事例3のように、Z社に悪意があるとは考えにくいため、
交渉次第では問題となる登録商標を譲り受けることができるかもしれません。
しかし、Z社は競業ということですので、それに応じる可能性は決して高いとは思われませんし、
良くても高額の対価やライセンス料を要求してくることが考えられます。
Z社が小さい企業であれば、Y社に業務提携を迫ってきたり、
これまでの事業活動に便乗しようとすることもあり得ます。
また、Z社に悪意がないだけに、法定の手段でこれを取り消すこともほぼ不可能とも言えます。
したがって、状況的には、単に金銭が欲しいだけの第三者が相手となる失敗事例3よりも深刻かもしれません。
こちらも、Y社にとっては「詰み」の状態と言えるでしょう。
たとえ外部公表前であっても、商標登録出願は1日でも早く完了し、
できれば公表前までに商標登録まで完了させておくことが、
本事例のようなトラブルを回避するためには理想です。