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出版社(書籍・雑誌・新聞)の商標登録

出版物のイメージ

雑誌新聞などの出版物は、私たちの生活に欠かせません。
これらは情報だけでなく、知識・知恵・勇気を与えてくれます。

最近は、紙の本が売れないと言われる一方、電子書籍は好調のようです。
時代の変化の中で、出版社の果たす役割は依然として重要と言えるでしょう。

さて、出版社も、その事業の中で「商標」との関わりがあります。
したがって、「商標登録」について知っておくことは有意義です。
しかし、出版社は約3000社が存在していると言われているところ、実際に商標登録を活用している会社は多くはないという印象を受けます。

業界の慣習もあるのかもしれませんが、商標登録には多くのメリットがあります。
要・否はともかく、基本的な知識を知っておくだけでも、必ず役に立つはずです。

そこで本ページでは、出版社に関する商標登録について、その概要や方法などをご紹介いたします。


1.「商標登録」とは何なのか?

商品名サービス名会社名店舗名ロゴマークなど、自分と他人の商品やサービスを識別できる標識は、「商標」になります。

このような「商標」は、特許庁に申請をして、所定の審査をパスすることによって、「商標登録」をすることができます。
そして、商標登録によって、「商標権」という強力な権利を取得できます。

商標権があると、以下のような様々なメリットがあります。

商標登録のメリット 1.その商標を独占して使うことができる。
2.他人が無断で同じ商標を使うのを禁止させられる。
3.他人が無断で似ている商標を使うのを禁止させられる。
4.譲渡やライセンスをするなど、財産権としても活用できる。
5.®を付けて、社会的信用をアップすることができる。
 ※注:実際には、商品やサービスの共通性も考慮されます。

なお、商標登録は、原則として他人の商標権の及ぶ範囲内では認められないことになっています。つまり、商標登録ができたという事実は、その商標を自由に使っても、他人の商標権を侵害することはないことを意味します。

したがって、商標登録をすれば、「その商標を事業で安全・安心に使い続けられる」ことが実質的に保証されることになります。事業リスクの観点から見れば、経営者にとって、これは心理的にも大きなメリットになると言えるでしょう。


2.出版社に関連する「商標」とは?

商標」とは、自分と他人の商品やサービスを識別できる標識を言います。
では、出版社に関する商標には、どのようなものが考えられるでしょうか?

一例として、たとえば以下のものが挙げられます。


(1)出版社名

まず、出版社名が考えられるでしょう。

書籍の表紙・裏表紙などに表示する出版社名としては、会社名そのものではなく、「株式会社」等を除いたものとすることが少なくないでしょう。たとえば、「〇〇出版」、「〇〇社」、「〇〇書房」、「〇〇書院」などが挙げられます。このような名称は、より「商標的」と言えます。

また、会社名とは異なるブランド名を、出版元の表示とする場合もあるでしょう。

このような出版社名や、出版元を表示するブランド名は、一般的に商品やサービスを識別できる標識になると言えますので、商標となり得ます。


(2)ロゴマーク、シンボルマーク

出版物に表示するシンボルマークも、商標になり得ます。

これらのシンボルは、出版社名などと一緒にロゴマークとして表示される場合がよくあります。もちろん、このようなロゴマークも商標になり得ます。


(3)出版物の名称(題号・タイトル)

出版物の名称(題号・タイトル)も、商標になり得ます。

しかし、出版物の名称(題号・タイトル)は、商品やサービスの識別標識というよりは、その出版物の内容を伝える文字である場合が多いと言えます。

よって、出版物の名称(題号・タイトル)は、一般的には商標にはなりにくいと考えられています。ただし、すべてが商標にならないというわけではなく、具体的な名称や出版物のタイプ、商品やサービスによっては、商標として機能する場合もあります。

詳細については、後述の「4.出版物の名称(題号・タイトル)の取扱い」をご参照ください。

その他、シリーズものの出版物であれば、シリーズ名が商標になり得る場合もあるでしょう。また、題号やタイトルではない、「〇〇文庫」、「〇〇新書」、「〇〇コミックス」などのようなレーベル名については、より商標的になると言えるでしょう。


3.商標登録の方法とは?

商標登録の申請をするためには、申請書となる「願書」を特許庁に提出します。

願書には、登録を受けたい商標と、商標を使用する商品やサービス等を記載します。
ここで記載したものが、商標権の権利範囲となりますので、慎重な検討が必要です。
なお、これらの商品やサービスは、種類や用途等から45のグループ(区分)に分類されています。たとえば、化粧品は第3類、薬剤は第5類、玩具類は第28類、といった具合です。願書には、この区分とそれらに分類される具体的な商品・サービスを併せて記載することが必要となります

願書を提出すると、特許庁の審査官によって審査がなされます。
主に商標法に規定された約30項目が審査され、これを無事にパスすると、
商標登録料の納付を条件に、正式に商標登録となります。

商標登録は、「早い者勝ち」の制度であることに注意が必要です。
いくら自分が先に使っていた商標だとしても、原則として、特許庁に申請をした順に、登録が認められます。つまり、のんびりしていると、いつ他の第三者にその商標を申請され、商標登録されてしまってもおかしくないのです。
そのため、商標登録は、1日でも早く申請を完了することが大切です。

なお、特許庁の審査結果が出るまでには通常、約7~9ヶ月がかかっています。
意外と時間がかかりますので、この点からも「1日でも早い」申請が大切と言えます。


4.出版物の名称(題号・タイトル)の取扱い

上述のように、出版物の名称(題号・タイトル)は、商品やサービスの識別標識というよりは、その出版物の内容を伝える役目を果たす文字となる場合が多いと言えます。そのため、商品たる出版物との関係で見た場合、出版物の名称(題号・タイトル)は、一般的には商標にはなりにくいと考えられています。

商標にならないものは、商標登録の対象とはなりません。
つまり、原則として、商標登録は認められません。
ですから、出版物の名称(題号・タイトル)を、商標として商標登録しようとする場合は、注意が必要です。

ここで、特許庁編纂の「商標審査基準」では、出版物の名称(題号・タイトル)が商標登録申請された場合の審査における取扱いとして、以下のように説明されています。
※一部省略部分あり。語頭の番号は便宜上のため当サイトにて付加しています。

(1) 「書籍」、「電子出版物」、…等の商品について、商標が、著作物の分類・種別等の一定の内容を明らかに認識させるものと認められる場合には、商品の「品質」を表示するものと判断する。

(2)「書籍」、…等の商品…について、商標が、需要者に題号として認識され、かつ、当該題号等が特定の内容を認識させるものと認められる場合には、商品等の内容を認識させるものとして、商品の「品質」・・・を表示するものと判断する。題号等として認識されるかは、需要者に題号等として広く認識されているかにより判断し、題号等が特定の内容を認識させるかは、取引の実情を考慮して判断する。
 例えば、次の①②の事情は、商品の「品質」…を表示するものではないと判断する要素とする。
 ① 一定期間にわたり定期的に異なる内容の作品が制作されていること
 ② 当該題号等に用いられる標章が、出所識別標識としても使用されていること

(3)新聞、雑誌等の「定期刊行物」の商品については、商標が、需要者に題号として広く認識されていても、当該題号は特定の内容を認識させないため、本号には該当しないと判断する。

これらの判断基準は実務上、重要と言えます。
少し長くなりますが、細かく見てみましょう。

まず、(1)と(2)にある『商品の「品質」を表示するものと判断する』というのは、「これは商標にはなり得ませんよ」と判断されるということです。したがって、このように判断された場合には、商標登録は拒絶されることを意味します

ちょっとわかりにくいかと思いますが、ざっくり言うと、商品「書籍」については、商標として申請したものが著作物の分類・種別等を意味することが明らかである場合は、これは商標とは言えないから登録は認められない、ということです。
たとえば、「商標法」や「小説集」がこれに該当するでしょう。

また、同じく、商品「書籍」については、商標として申請したものが需要者に題号と認識され、かつ、それが特定の内容を認識させるような場合は、これも商標とは言えないから登録は認められない、ということです。
たとえば、「商標登録実践マニュアル」がこれに該当するでしょう。

ただ、これを逆にとらえると、「商標として申請したものが需要者に題号と認識されないか、それが特定の内容を認識させないものであれば、商標になり得ないとは判断されないこともある」と考えることもできそうです。

よって、書籍の名称(題号・タイトル)だからといって、一律に商標登録ができないというわけではありません。実際、書籍の題号と思われる商標が登録されている例も見受けられます。

書籍の名称(題号・タイトル)については、一般的には商標登録が難しいとは考えられますが、具体的な名称や出版形態、需要者による認識具合、実際の取引の実情によっては、商標登録ができる余地もあると言えるでしょう(ただ、やはり基本的には難しいと理解しておくべきでしょう)。

なお、書籍の名称(題号・タイトル)について商標登録ができた場合であっても、それを出版物に無断で使っている第三者に対して実際に商標権を行使しようとする際には、注意が必要です。すなわち、上述の性質によって、その第三者からは「自分は商標として使っているのではないから、商標権の侵害とはならない。」と反論される可能性が高いと考えられるためです。仮に裁判を起こしたとしても、裁判所もそのように認定して、商標権侵害を認めない可能性も考えられます。このように、書籍の名称(題号・タイトル)の場合には、一般的な商標と比較して、商標権の実効性に懸念がある点も、忘れてはならない注意点と言えます。権利行使の前には、慎重な検討が必要です。

以上の(1)と(2)は、商品が「書籍」の場合の話でした。
続く(3)は、商品が新聞、雑誌等の「定期刊行物」である場合の判断基準となります。

まず、(3)の『本号には該当しないと判断する』というのは、「商標として機能し得る」と判断されるということです。したがって、このように判断された場合には、商標登録は認められ得ることを意味します

すなわち、新聞、雑誌等の「定期刊行物」の名称(題号・タイトル)の場合は、たとえそれが題号と認識されるとしても、特定の内容を認識されないため、商標になり得ないとは判断されない、とされています。新聞や雑誌は、様々な記事等で構成されており、毎号その内容が異なるからという理屈だと思われます。

よって、新聞、雑誌等の「定期刊行物」の名称(題号・タイトル)については、基本的に商標になると考えられますので、商標登録を積極的に検討することが推奨されます


5.願書に記載する商品・サービスの一例

出版社の商品・サービスのイメージ

それでは、実際に商標登録の申請をする場合、願書にはどのような商品・サービスを記載することが考えられるでしょうか。

もっとも眼目と言えるのは、「印刷物」が含まれる第16類の区分でしょう。
その他、商標の種別、事業の内容、出版の形態などによって、以下の商品・サービスについても願書に含めることを検討すると良いでしょう。

① 第16類
  • 印刷物
  • 書籍
  • 絵本
  • 漫画本
  • 新聞
  • 雑誌
  • 双書
  • 定期刊行物
  • 年鑑
  • 時刻表
  • 地図
  • カレンダー

第16類には、上掲の「印刷物」のほか、「文房具類」、「紙類」、「書画」なども含まれます。必要に応じて、これらも願書に記載すると良いでしょう。

② 第9類
  • 電子出版物
  • 電子書籍

第9類には「電子出版物」が含まれます。
ここでは商品としての「電子出版物」を意味しますので、「CDーROM等の記憶媒体で提供されるもの」や「電気通信回線(インターネット)を通じてダウンロードにより提供されるもの」などが、これに該当します。

③ 第41類
  • 書籍の制作
  • 書籍・雑誌の編集
  • 書籍・定期刊行物・雑誌及び電子出版物の企画・編集・制作
  • 電子出版物の提供
  • 電子出版物の提供の媒介又は取次ぎ
  • 電子出版物の制作
  • 電子出版物の供覧
  • 電子出版物の貸与
  • 電子書籍の提供
  • 電子書籍の貸与

第41類には、「書籍の制作」や「電子出版物の提供」などが含まれます。
出版と関連性の強いサービスと言えるため、優先順位は高めと言えます。
なお、「電子出版物の提供」とは、「電気通信回線(インターネット)を通じて電子出版物を供覧させるサービス」が、これに該当します。

※※※実務上、「書籍の出版」や「電子出版物の配信」といった記載のしかたは認められませんので、特に注意が必要です。※※※

その他、第41類には、「技芸・スポーツ又は知識の教授」、「セミナーの企画・運営又は開催」、「文化イベントの企画・運営又は開催」、「図書及び記録の供覧」、「図書の貸与」、「書画の貸与」なども含まれますので、必要に応じて追加を検討すると良いでしょう。

④ 第35類
  • 印刷物の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供
  • 書籍の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供
  • 電子出版物の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供

第35類には、いわゆる「小売・卸売関連サービス」が含まれます。
実店舗や通販サイトなどを運営する場合には、検討の余地があります。

なお、ここで言う「小売・卸売関連サービス」とは、「商品の販売行為」のことではなく、商品販売のための品揃え、陳列、接客など、顧客のための便益を図ることを意味します。ただ、商標登録の必要性という観点においては、実務上、あまり厳格には区別されていない印象がありますので、検討には値するでしょう。

その他、第35類には、「新聞・雑誌・書籍による広告」や「新聞・雑誌・書籍の記事情報の提供」なども含まれます。必要に応じて、追加検討の余地があるでしょう。

その他、必要に応じて、また、戦略に基づいて、商品やサービスを記載します。
願書には、事業内容に適した商品・サービスをモレなく記載することが重要です。

どのような区分を含めると良いのか、初めての場合は特にわかりにくいと思います。商標登録は、やはり専門家である弁理士へのご依頼をオススメいたします。

※注:上記の商品・サービスの表記はあくまで一例です。
上記は2019年9月現在の情報に基づくものです。今後、商品・サービスの分類や記載の可否が変更となる可能性がありますので、あらためて各自でご確認願います。


6.商標登録の費用について

商標登録には、費用がかかります。
審査で引っかからずにスムーズに登録が認められた場合、(1)申請時(2)登録時の2回のタイミングで支払いが発生します。

料金の額は、上述の区分の数によって変動します。
すなわち、区分の数が増えれば増えるほど、料金が加算される仕組みです。

具体的な金額は、以下のようになります。

(1)申請時:  3,400円+(区分数×8,600円)
(2)登録時:  区分数×32,900円  ※10年分の登録料です。

たとえば、1区分の場合は、(1)申請時に12,000円、(2)登録時に32,900円が必要です。よって、商標登録(10年)には、最低でも44,900円が必要ということになります。

出版社に関する商標の場合、区分数は一般的には1~3つ、多くても4~5つ程度になることが多いのではないかと思われます。

なお、特許事務所に依頼する場合には、これにサービス料金が加わります。
料金は特許事務所によって異なりますが、一般的には、最低でも7万~10万円程度が上記金額にプラスされることが多いようです。

また、審査で引っかかった場合等には、対応するにあたって、手続に応じた諸費用が発生する場合がありますので、ご留意ください。


当事務所がお手伝いできること

紫苑商標特許事務所では、商標登録のご依頼を承っております。
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