ファッションブランド・アパレル関係者のための商標登録
衣服や履物、帽子などのアパレル関連商品は、私たちの生活に欠かせない物です。
また、私たちが個性を発揮して、毎日をより楽しく、よりはなやかに過ごすためには、身に着けるアクセサリーや小物類も、欠かせない商品であると言えるでしょう。
これらの「ファッション関連アイテム」には、流行性や季節性もあり、毎年多くの新商品が製造・販売され、国内外を問わず市場に流通しているのはご存じの通りです。
一方、このような商品は、模倣品やニセモノが出回りやすいという事実があります。
特に、高価で有名ないわゆる「ブランド品」のニセモノが多く、これらを販売した者が、商標法違反の罪で逮捕されたというニュースを、しばしば耳にします。
ブランド名、商品名、ロゴマークなどの識別標識は、「商標」になります。
これらの商標を適切に保護することで、自社のブランド育成や、他人によるブランド名等のモノマネの防止などにつながります。
そして、大切な商標を保護するためには、「商標登録」が特に役立ちます。
そこで、本ページでは、ファッションブランド・アパレル関係者のための商標登録について、その概要や留意点をご紹介いたします。
1.商標登録の概要
ファッション関連商品の商品名、ブランド名やそれらのロゴ、製造元・販売元の名称やロゴマークは、「商標」になり得ます。
これらの商標は、特許庁に申請(※正確には「出願」と言います。以下、わかりやすさを優先して「申請」と記します)して所定の審査をパスすることで、「商標登録」を受けることができます。
商標登録を受けると、「商標権」という強力な権利を取得できます。
商標権があれば、権利の範囲内で、その商標を独占して使うことができます。他人が無断で使っている場合には、使用の中止や損害賠償を求めることも可能となります。
商標権は、他人による同一商標の使用だけでなく、似ている商標の使用にも及びます。
また、商標登録をすることで、その商標に「®」を付けることができます。
®は法律に定められたものではありませんが、この表示があることで、取引者や需要者の社会的信用をアップすることが期待できます。
商標権の効力は、日本全国に及びますので、かなり強力と言えます。
また、現実の世界だけでなく、ネット上の使用行為に対しても有効です。
なお、商標権の有効期間(存続期間)は、原則として登録日から10年間です。
ただし、更新登録申請の手続をすることで、さらに10年の権利の維持が可能です。
更新の手続は、何度も繰り返してすることができます。
つまり、更新をする限り、半永久的に権利の維持が可能ということになります。
ご参考:「商標登録とは?」
2.商標登録をするためには?
商標登録をするためには、特許庁に申請をして、審査をパスする必要があります。
登録申請をするには、申請書となる「願書」を作成して提出します。
願書には、登録を受けたい商標と、商標を使用する商品やサービス等を記載します。
商標登録は、商品やサービスとセットで行なうというイメージです。
ここで記載したものが後に商標権の権利範囲となりますので、慎重な検討が必要です。
記載する商品やサービスは、実務上、45のグループ(区分)に分類されています。
たとえば、化粧品は第3類、鞄類は第18類、被服類は第25類、といった具合です。
願書には、この区分と、それらに分類される具体的な商品・サービスを併せて記載することが必要となります。
願書を提出すると、特許庁の審査官によって審査がなされます。
そして、無事にパスすると、商標登録料の納付を経て、正式に商標登録となります。
なお、商標登録は「早い者勝ち」の制度であることに注意が必要です。
登録は、商標を使い始めた順ではなく、申請をした順に認められるルールなのです。
ですから、他人が先に貴社と同じ商標や似ている商標を商標登録してしまうと、貴社は登録を受けることができなくなってしまいます。
それどころか、それ以降に商標を使い続ければ、商標権侵害となる可能性もあります。
ですから、商標登録は、1日でも早く申請を完了することが大切になります。
特許庁の審査が完了するまでには、通常で約7~9か月程度がかかっています。
意外と時間がかかりますので、この点からも「1日でも早く」がポイントです。
ご参考:「商標登録をしないとどうなるのか」
3.ファッション分野の商標登録 5つの留意点
ファッション関連アイテムについて商標登録を受けるにあたっては、特に次のような特徴や留意点があることに注意が必要です。
(1)指定商品が複数の区分に分かれる傾向がある
上述のように、商標登録を申請するためには「願書」の作成が必要です。
願書には、保護を受けたい商品やサービスを、区分ごとに記載することが必要でした。
では、ファッション関連商品の場合、どんな区分を記載すれば良いのでしょうか?
ファッション関連アイテムには様々なものがあり、その性質や用途、素材によって、複数の区分に分かれることが特徴的です。
たとえば、衣服は「第25類」、かばん類は「第18類」、アクセサリーは「第14類」・・・、といったように分類されています。
アクセサリーは特に注意が必要で、同じアイテムでも素材や用途によって別の区分に分類されることがあります。たとえば、「ブローチ」なら、一般的な貴金属製のものや宝飾品は「第14類」、被服用アクセサリーなら「第26類」、おもちゃなら「第28類」に分類されます。
このような特徴がありますので、商標登録を受けたい商品が、どの区分に属するものであるか、申請前にしっかりと確認する必要があります。
なお、ファッション関連アイテムについて、具体的な商品例を、それぞれ身に付ける体の部位ごと、区分ごとに一覧にまとめましたので、ご参考にしてください。
<体の部位ごとに分類した一覧>
区分ごとに分類した一覧表は、こちら。
部位 | 商品 | 区分 |
---|---|---|
① 頭部 |
帽子、バンダナ |
25類 |
ピアス、イヤリング |
14類 |
|
髪飾り、ヘアバンド、カチューシャ、シュシュ |
26類 |
|
ウィッグ、ヘアエクステンション |
26類 |
|
サングラス、ファッション眼鏡、コンタクトレンズ(カラコン) |
9類 |
|
サングラス用・眼鏡用ケース |
9類 |
|
② 首 |
ネックレス、チョーカー |
14類 |
マフラー、ストール、スカーフ |
25類 |
|
ネクタイ |
25類 |
|
ネクタイピン |
14類 |
|
③ 上半身 |
衣服(トップスのアウター・インナー) |
25類 |
ブローチ(貴金属性、宝石) |
14類 |
|
ブローチ(被服用アクセサリー) |
26類 |
|
④ 手・腕 |
指輪 |
14類 |
腕時計 |
14類 |
|
ブレスレット |
14類 |
|
つけ爪 |
3類 |
|
つけ爪(おもちゃ) |
28類 |
|
⑤ 下半身 |
衣服(ボトムスのアウター・インナー) |
25類 |
ベルト |
25類 |
|
タイツ、ストッキング |
25類 |
|
ガーター、靴下止め |
25類 |
|
⑥ 脚・足 |
履物、靴類 |
25類 |
靴下類、ソックス |
25類 |
|
アンクレット |
14類 |
|
⑦ その他 |
かばん類、バッグ |
18類 |
財布 |
18類 |
|
ウォレットチェーン |
14類 |
|
キーケース |
18類 |
|
キーホルダー |
14類 |
|
名刺入れ、定期券入れ |
18類 |
|
傘 |
18類 |
|
香水 |
3類 |
※注:上記の商品はあくまで一例です。
今後、分類や記載の可否が変更となる可能性もありますので、あらためてご確認願います。
(2)ショップ名や通販サイト名の保護も検討する
商品ブランドの名称をショップ名としても使う場合や、アイテム名とは別にショップ名も保護したいという場合は、これらについても商標登録を検討すべきでしょう。
この場合、「小売サービス」を対象として、商標登録をする余地があります※1。
具体的には、小売サービスが分類される「第35類」の区分を指定して、願書には、たとえば次のような指定役務を記載します。
・被服の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供
・履物の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供
・かばん類及び袋物の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供
・身飾品の小売又は卸売の業務において行なわれる顧客に対する便益の提供
・頭飾品の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供
ショップ名が商品自体にも使われている場合は、当然、それらの商品を指定した商標登録も検討すべきです。
なお、インターネット上のオンラインショッピングサイトの名称について商標登録を受けたい場合も、同様の考え方になると解されます。
このような小売サービスを指定した商標登録申請については、審査で複雑なルールが適用されます。まずは専門家である弁理士にご相談されることをお勧めいたします。
※1:商標登録の対象となる「小売サービス」とは、「商品の販売行為」のことではなく、商品販売のための品揃え、陳列、接客など、顧客のための便益を図ることを意味します。ただ、商標登録の必要性という観点においては、実務上、あまり厳格には区別されていない印象があります。
(3)費用が割高になるケースが比較的多い
商標登録の費用は、願書に記載した「区分の数」に応じて決まります。
つまり、区分の数が増えれば増えるほど、費用も割高になってしまう仕組みなのです。
上述のように、ファッション関連商品は、複数の区分に分類されるのが特徴的です。
ですから、広く商品展開をしていると、商標登録にあたってはどうしても複数の区分を指定する必要がでてきます。
よって、モレのない保護をしようとすれば、それなりの費用がかかってしまうということには、あらかじめ留意しておくべきでしょう。
(4)商品のライフサイクルを考慮することも大切
ファッション関連アイテムには流行性や季節性があり、一般的にはライフサイクルが短いと言えます。一方で、商標登録の審査結果が出るまでには、通常、申請から1年近くがかかります。すると、「商標登録の申請をしたけれど、審査の結果を待っていたらもう商品展開が終わっていた」、ということも十分にあり得る話です。
ですので、継続的に使うメインブランドの名称やシリーズ名については、商標登録の必要性が高いと言える一方で、ワンシーズンのみ使う商品名(ペットネーム)の商標については、本当に登録までもが必要かを検討することが大切と言えます。
特に、上述のように、全てのアイテムについて丁寧に登録していたのでは費用が膨大となってしまいますので、商品ライフサイクルの長短や、商標の継続的使用の可能性を考慮し、適切な優先度を付けた上で、これが高い順に申請するのがよいでしょう。
ただし、商標登録をしない場合は、その使用が他人の商標権を侵害してしまうリスクがあります。使用可能性については、事前に必ず商標調査を実施してください。
なお、商標調査にはテクニックや専門知識を要しますので、専門とする弁理士に依頼されることをお勧めいたします。
(5)コラボ商品の権利処理・権利確認は念入りに
近年、ファッションアイテムと他業種のブランドやキャラクターがコラボレーションした商品が、よく見られるようになりました。
いわゆる「コラボ商品」と言われているものです。
コラボ商品には、自身の商標に加えて、コラボ相手のブランド名やキャラクター絵柄などを表示するところ、事前に使用を認める契約等がなされることが一般的でしょう。
ここで注意しなければならないのは、その使用許諾契約等が、きちんと相手方の保有する商標権や著作権に基づいてなされているか、ということです。
すなわち、相手方のブランド名をコラボ商品に使用する場合、その商品について商標権による手当てが適切になされているかに注意しなければなりません。
もし、コラボ商品の商品分野について、相手方が商標権を保有しておらず、実は他の第三者が商標権を持っていたとなっては、大変なことになってしまいます。
このような契約等の際には、ライセンス分野に詳しい弁護士や弁理士に相談するようにして、権利処理や権利確認を念入りに行なうよう、注意してください。
4.商標登録にかかる費用は?
商標登録には、費用がかかります。
審査で引っかからずにスムーズに登録が認められた場合、(1)申請時、(2)登録時の2回のタイミングで支払いが発生します。
料金の額は、願書に含める区分の数によって変動します。
具体的な金額は、以下のようになります。
(2)登録時: 区分数×32,900円 ※10年分の登録料です。
たとえば、被服類が含まれる「第25類」の1区分を指定する場合は、
(1)申請時に12,000円、(2)登録時に32,900円が必要です。
よって、商標登録(10年)には、最低でも44,900円が必要ということになります。
なお、弁理士に依頼する場合には、これにサービス料金(報酬額)が加わります。
料金は、弁理士の所属する特許事務所によって異なります。
また、審査で引っかかった場合等には、対応するにあたって、手続に応じた諸費用が発生する場合がありますので、ご留意ください。
5.おわりに
ファッション関連アイテムは、他の商品やサービスと比べると、商標登録の重要度と必要性が比較的高いと言うことができます。
一方で、これらのアイテムの全てについて登録を受けようとすれば費用が膨らむ傾向にあるといった点や、一般的には商品のライフサイクルが短いといった点があることも特徴的で、これらの観点も含めた商標戦略が必要となる難しい分野でもあります。
ぜひとも、しっかりとした戦略を立て、商標登録によって、あなたの大切なブランドと信頼を末永く守っていただければと思います。
なお、商標登録をするためには、専門的な知識の下で様々な検討が必要となります。
貴社ご自身で申請をするとなると、なかなかハードルは高いと思われます。
そこで、まずは専門家である「弁理士」にご相談されることをオススメいたします。
弁理士は「特許事務所」などで仕事をしておりますので、ぜひ貴社と相性の良さそうな弁理士をお探しになって、コンタクトしてみてください。
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