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商標登録をした商標でも、使い方には要注意!

<新着コラム> 2023年9月12日

自身の使う商標について、商標登録が認められると安心するものです。
商標登録により、その商標の安心・安全な使用が実質的に保証されますから、「これからは、積極的にどんどん使っていくぞ!」とお考えになる事業者の方々も、少なくないでしょう。

しかし、商標登録が認められた商標だからといって、それに安易に他の要素を付加したり、変更を加えたりして使うと、思わぬトラブルに巻き込まれる可能性がありますので、注意が必要です

今回のコラムでは、商標登録をした商標(以下、「登録商標」といいます)の使い方の注意点について、少しだけ述べてみたいと思います。



1.独占して使えるのは登録商標と「同一の商標」

商標登録をすると、その商標を、指定商品・指定役務について独占的に使うことができるようになるのは、ご存知のとおりです。

このように独占して使えるのは、登録商標そのもの、つまり、これと「同一の商標」であることが前提となります。

逆に言えば、「同一の商標」とは言えない商標となった場合には、その独占的な使用、安心・安全な使用は保証されないということになります。たとえば、登録商標に他の要素を付加したり、変更を加えたりすれば、それはもはや「同一の商標」とは言えなくなるでしょう。

そのような商標を使用した場合、他者との間でトラブルが生じる可能性も否定できず、危険と言わざるを得ません。
たとえば、「SHION MAX」を商標登録していて、実際に使用する際には勝手に「POWER」を付けて「SHION MAX POWER」と表示していたとします。そして、このうち「MAX POWER」の部分だけを特別大きく表示し、かつ、色彩も目立つようなものにして使っていた場合、この部分が要部になり得ると考えられる余地もあります。その場合、「MAX POWER」を商標登録している他者から、商標権侵害を指摘されてもおかしくはないということになるわけです。(※注:架空の事例です。)

商標登録をした商標に関する商標であれば、どんな使い方をしても問題は生じないということにはなりませんので、ご注意ください。安心・安全な使用が保証されるのは、原則として、あくまで登録商標そのものを使う場合ということになります。

ただし、登録商標と「社会通念上同一の商標」といえるものであれば、登録商標そのものでなくても、それを使用することでトラブルが生じるようなことはまずないと考えられます。

「社会通念上同一の商標」というのは、登録商標について、①書体のみに変更を加えた同一の文字からなる商標、②平仮名、片仮名及びローマ字の文字の表示を相互に変更するものであって同一の称呼及び観念を生ずる商標、③外観において同視される図形からなる商標、などをいいます。

具体的な例としては、特許庁の審判便覧(53―01 T)の「2」の(2)に列挙されていますので、こちらをご参照ください。



2.登録商標と「類似の商標」を使いたい場合は?

上述のように、商標登録によって独占的な使用が認められるのは、あくまで登録商標そのものです。他者が類似商標を使用した場合に、商標権を行使してそれを排除することは可能ですが、類似商標自体の独占的な使用が認められているわけではありません

したがって、登録商標と「類似の商標」を使用した場合、他者との間でトラブルが生じる可能性も否定できませんので注意が必要です。たとえば、その登録商標と「類似の商標」が、他者の登録商標の「類似の商標」にもなる場合、つまり、互いの登録商標の類似範囲が抵触する(重なる)場合は、他者から商標権侵害を指摘されてもおかしくはないということになります。

互いの登録商標の類似範囲が抵触するというのは、現実的にはそこまで起こり得るものではないかもしれません。しかし、近年、特許庁では商標の類似範囲がかなり狭く判断されている傾向があります。このような状況下においては、登録商標の類似範囲が互いに抵触する可能性が高まるとも考えられます。やはり、楽観をすべきではないでしょう。「類似の商標については、他者は登録できないはずだから、自由に使っても問題にはならないだろう」という話には必ずしもならない点に、注意が必要です。

ただ、実際には「類似の商標」といっても、その程度にもよるでしょう。

商標法第70条には、『「登録商標」には、その登録商標に類似する商標であって、色彩を登録商標と同一にするものとすれば登録商標と同一の商標であると認められるものを含むものとする。』という規定があります。ごく簡単に言えば、登録商標と実質的に同一といえる「色違いの類似商標」であれば、登録商標と同視されるということです。ですので、このような商標に該当する類似商標であれば、基本的に、自由に使っても問題にはならないということになります。

なお、「色違いの類似商標」であることが条件ですので、色彩を変更することで非類似となってしまうような商標の場合は対象外となります。シンボルマークやデザイン化したロゴタイプの商標の場合は、特にこの点に注意をする必要があるでしょう。

結局のところ、登録商標と「類似の商標」を使いたい場合は、その商標についても商標調査を行ない、使用可能性を事前にしっかり確認しておくのがベストな対応になるということになります。



3.使い方が原因で商標権侵害とされた事件の一例

最後に、ある商標について商標登録をしていたにもかかわらず、その使い方が原因で、他者の商標の商標権侵害となってしまった事件(令和2年(ワ)第1160号)を一つご紹介いたします。

被告は、以下の商標を商標登録していました。

登録商標「KENT BROS.\ケントブロス」イメージ画像

一方で、実際には商品について、以下のような態様で使用していました。

「KENT BROS.」使用標章1画像 「KENT BROS.」使用標章2画像

このような被告の使用に対して、「KENT」や「Kent」を商標登録している原告が、商標権の侵害を主張して、裁判になったというものです。

結果として、裁判所は、被告の使用行為は商標権の侵害になることを認めました。

おそらく被告は、商標登録もしているし、これぐらいの変更であれば問題はないであろうと思っていたのでしょう。少なくとも、悪意があったわけではない気がします。

この点について、被告は、あくまで自身の登録商標と社会通念上同一の商標を使っているにすぎないのだから商標権侵害にはならないとの抗弁をしましたが、裁判所はいずれも社会通念上同一の商標であるとは認めませんでした。つまり、被告の使用している商標は、登録商標に変更を加えた別の商標だと判断されたことになります。

本事件では、原告の商標がある程度有名だったという個別の事情が考慮された上での判断がなされてはいるものの、このような事例が存在することは、たとえ商標登録をしている商標であっても、変更を加える等、使い方次第では他者の商標権を侵害し得ることを示唆していると言えます。

もし、登録商標の使用態様を変更する場合には、勝手に「これぐらいの変更なら大丈夫だろう」とは決めつけず、やはり事前に弁理士などの専門家に相談されることがお勧めされる次第です。



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