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【2022年度】クリニック名の商標登録出願に関する考察

<新着コラム> 2023年3月8日

昨年11月のコラムでは、医師の先生方などによる「クリニック名の近年の商標登録出願の傾向」について考察をしました。具体的には、2020年と2021年にされたクリニック名に関する商標登録出願について、それらの商標の特徴や傾向などを俯瞰してみました。

この度、昨年2022年にされたクリニック名に関する商標登録出願についても、概ね1年間の情報が確認できるようになりましたので、今回のコラムで追加考察してみたいと思います。

※ご注意※
以下で掲げる情報は、当事務所の弁理士がデータベース「J-PlatPat」を利用して、独自に調査を行なったものです(調査日:2023年3月3日)。調査の性質上、商標の件数などについては、実際の数と誤差がある可能性が考えられます(調査時期によっても、当然に件数は変動いたします)。また、拒絶査定となった出願であっても、今後、不服審判が請求されることで、最終的に商標登録が認められる可能性がございます。以上の点などを予めご留意の上で、本コラムの内容をご参考いただけますよう、お願い申し上げます。



1.クリニック名に関する商標登録出願の数(2022年度)

まず、2022年度にされた、クリニックの名称に関する商標登録出願の数について見てみましょう。

なお、こちらは「商標登録の数」ではなく、「出願の数」の話になります。
すなわち、クリニック名の商標について、どれくらいの数が特許庁に登録を申請されたのかということです。よって、実際に特許庁の審査をパスして登録が認められたものだけでなく、登録拒絶・出願却下となったものの数も含まれます。

当事務所の調査によれば、医業のサービス分野を指定した、「〇〇〇クリニック」と読まれる商標は、昨年2022年には約283件が出願されたようです。

ただし、このうち14件は、あきらかに医師ではない者による出願であると見受けられます(※現在は、すべてに「出願取下」がされた模様)。よって、実質的には、これらを除いた約269件程度だと考えられるでしょう。

前回の調査によれば、2020年には約161件、2021年には約251件でしたので、2022年も引き続きクリニックの名称に関する商標登録出願は微増していると言えるでしょう

なお、このうち約3割が、シンボルマーク等の要素と文字を結合させた商標となっています。



2.クリニック名の商標に関する考察(2022年度)

前回のコラムと同様に、昨年2022年に商標登録出願がされたクリニック名の商標について、それらの特徴や傾向を簡単に考察してみたいと思います。

目を引いたものとしては、以下のような商標が挙げられます。


(1)シンプルな名称の商標

「アルファベット1文字+クリニック」が基本構成となるシンプルなクリニック名の商標は、2020年や2021年にも散見されました。一方で、昨年2022年は、こういったシンプルな名称の商標が、より増えたという印象があります

なお、基本構成が「アルファベット1文字+クリニック」の商標だけでなく、「アルファベット2文字+クリニック」という商標も散見されました。

たとえば、現時点ですでに登録が認められているものとしては、「i MENTAL CLINIC」(登録第6570238号)、「小顔A CLINIC」(登録第6594179号)、「THE N クリニック東京」(登録第6604823号)、「AC クリニック」(登録第6612798号)、「Aiクリニック」(登録第6675030号)などを目にすることができます。

また、現在、特許庁で審査中または審査待ちのものとしては、「Eクリニック」、「T CLINIC」、「Re Clinic」、「KKクリニック」などがあるようです。

院長先生のイニシャルの1文字又は2文字をとって、クリニックの名称とするネーミング手法は、わりと昔から見かけるのではないかと思われます。しかし、上掲の例のような登録商標・出願商標が多く存在していることを踏まえると、そのような手法で付けたクリニック名と同じ名称が、すでに商標登録されている可能性もあるかもしれないという点には、要注意と言えるでしょう

知らぬ間に、他院の商標権を侵害していたら一大事です。
やはり、開院等の際にクリニックの名称を決めるにあたっては、事前に商標調査を実施しておくことがお勧めされます


(2)専門分野をわかりやすく表わした商標

2020年と2021年に引き続き、クリニックの専門分野をわかりやすく表した名称の商標も散見されました。

たとえば、「むくみクリニック\Lymphedema clinic,Tokyo」(登録第6566488号)や、「大場内科クリニック」(登録第6634090号)が見受けられます。

ただし、これらの商標は、文字だけで構成されているものではなく、いずれもシンボールマーク(図形の要素)が付加されています。一般的に、クリニックの専門分野をシンプルに文字だけで表わしたような商標には「識別力」が認められないと考えられ、多くの場合はこれを理由に登録拒絶がされますので、その対策として付加されたものでしょう。

実際に、文字要素だけの「むくみクリニック」も出願されていますが、こちらには「拒絶査定」が出されています。

なお、現在、特許庁で審査中または審査待ちのものとしては、「毛のクリニック」、「ニキビと生理のクリニック」、「ひざの痛みクリニック」、「ひざの痛みクリニック(※図形ロゴ付き)」などがあるようです。


(3)最新技術・DXをイメージさせる商標

2022年に出願がされたクリニック名に関する商標のうち、特に目を引いたものの一つとして、最新技術やDXをイメージさせる商標が挙げられます。

たとえば、「メタバースクリニック\Metaverse clinic(※図形ロゴ付き)」(登録第6622652号)、「メタバースともしびクリニック」(登録第6663990号)、「フローラオンラインメンタルクリニック(図形ロゴ付き)」(登録6665776号)、「ギガクリニック」 (登録6650395号)などが、個人的には気になりました。

また、現在、特許庁で審査中または審査待ちのものとしては、「デジタルクリニック」、「メタバースクリニック」、「XR CLINIC」、「国際オンラインクリニック」などもありました。

近年、医療分野でのデジタル化や、医療DXの取り組みが促進される中、こういった最新技術を取り入れたクリニックも今後はますます増えていくのでしょう。


その他、2020年や2021年と同様に、女性医師の先生のお名前(名のほう)を付けたと思われるクリニック名の商標も、いくつか見受けられました。



3.最近の特許庁の商標審決例

前回のコラム以降に出された、クリニック名の商標に関連した商標審決としては、以下の事件があります。

不服2022-004794

商標「UNITED」(本願商標)を登録出願したところ、これが「ユナイテッドクリニック」の文字を上段に、青色で表された図形を中段に、青色で表された「UNITED CLINIC」の文字を下段に配した構成からなる商標(引用商標1)と、「メンズクリニックユナイテッド」を横書きした商標(引用商標2)に類似するとして拒絶査定がされたため、不服申し立ての審判において類似性が争われた事件です。

結論としては、「本願商標と引用商標とは、外観、称呼及び観念のいずれにおいても、相紛れるおそれのない非類似の商標というべきである」と判断されました。つまり、これらの商標は「似ていない」と判断されたことになります。その結果、商標「UNITED」の登録が認められました。

「ユナイテッドクリニック」や「メンズクリニックユナイテッド」は、あくまで構成文字全体として一つのクリニックの名称と認識、把握されるものであるから、いずれも「ユナイテッド」だけが要部にはなり得ないというのが、特許庁の考え方となります。

前回のコラムでご紹介した商標審決と同様、大変参考になるものと言えます。



4.おわりに

今回は、昨年2022年度にされた、クリニック名に関する商標登録出願について、追加で簡単に考察をしてみました。

他院とのさらなる差別化のためか、クリニック名にも様々なタイプのものが見受けられ、今後も「造語的」な名称は増えていくものと予測されます。

そうすると、クリニックを運営する医師の先生方にとっても、一般的な事業者と同じように、「商標登録」はますます身近なものとなるでしょう。また、これから開業をする先生方にとっては、他院の商標権を侵害するようなクリニック名をうっかり付けてしまわないよう、より注意深く検討する必要があります。やはり、事前に「商標調査」を実施しておくことが強くお勧めされます

今年2023年は、どのような変化があるのか楽しみです。

最後に、医師の先生方の商標登録については、「お医者さんのための商標登録」、「歯医者さんのための商標登録」のコンテンツも、よろしければご参照いただければと思います。当事務所へのご相談・ご依頼も、これらのページにあるメールフォームより受け付けております。