【医療業界関係者向け】医薬品と商標登録の話
<新着コラム> 2022年12月23日
※本コラムは、主に医療業界関係者向けのコンテンツとなります。
医療業界関係者の方々が、日々の仕事の中で「商標登録」という語に接する機会は、法務に携わる一部の方を除いて、あまりないのではないでしょうか。「特許」という語については、業界内で比較的目にすることはあるかもしれませんが、「商標登録」については、ニュースなどで話題になった際に意識する程度かもしれません。
ですから、商標登録とは、「商売人だけに関係がある話」であるとか、「大企業だけが必要になる話」であると、誤解している医療業界関係者の方も少なくないかもしれません。
しかし、商標登録は、医療業界においても非常に重要な役割を果たしています。
医療業界関係者の方々が、知識としてこれについて知っておくことは、まったく無駄なことではないはずです。
そこで本コラムでは、医薬品に関する商標登録を一例として挙げた上で、商標登録の概要や役割について、簡単にご紹介いたします。
1.そもそも商標登録とは?
2.なぜ商標登録が大切なのか?
3.医薬品と商標登録
4.医薬品の名称に関する最近の商標登録例
5.商標登録の対象となるのは他にもさまざま
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1.そもそも商標登録とは?
そもそも、「商標登録とは何ぞや?」という疑問を持たれている方も、いらっしゃるかもしれません。
ではまず、「商標」とは何でしょうか?
商標とは、簡単に言えば、商品やサービスを識別するための目印・マークです。
商品名や会社のロゴマークを想像すると、わかりやすいかもしれません。
ただ、文字や図形だけでなく、目に見えない音や香りも、商標にはなり得ます。
これらの要素のうち、商標法という法律で定められたものについては、特許庁に登録申請(正確には、「出願」と言います)をして、審査にパスすることで、「商標登録」をすることができます。
商標登録をすると、「商標権」という強力な権利が認められます。
商標権があれば、権利の範囲内で、その商標を独占的に商品やサービスに使うことができます。他人が無断で権利の範囲内の商品・サービスに使えば、使用差止めや損害賠償を求めることが可能です。
なお、商標権は「類似の範囲」にも効力が及びます。
すなわち、他人が、「その商標」を「類似の商品・サービス」に使う行為や、「その商標と類似する商標」を「同一又は類似の商品・サービス」に使う行為も、同様に規制の対象となります。
商標権は、原則として登録日から10年間有効です。
ただし、「更新」をすることによって、さらに10年維持することが可能です。つまり、更新を繰り返す限り、半永久的に権利を保持し続けることができます。
2.なぜ商標登録が大切なのか?
それでは、商標登録をすると具体的にどう役立つのでしょうか?
まず、商標登録をしておけば独占的な使用が可能になりますので、「事業で安心・安全に、その商標を使うことができる」という点が挙げられるでしょう。
また、他人が勝手に同じような商品・サービスに紛らわしい商標を使うことを禁止させられる点や、他人が勝手に同じ商標を使った偽造品などを排除できるといった点でも、大いに役に立つと言えます。
もちろん、「ブランド育成」という点からも、商標登録は有効です。
その他にも、商標登録には様々なメリットがあります。
3.医薬品と商標登録
ここで、医療業界における一例として、医薬品に関する商標登録について見てみましょう。
世の中には、様々なタイプの商品が流通していますが、医薬品にはある大きな特徴があると言えます。それは、「健康や生命にかかわる商品」であるという点です。したがって、一般的な商品以上に、需要者が商品を誤認・混同しないかや、誤って偽造品を使ってしまわないかなどを、製造元等は注視しなければなりません。
こういった観点からも、医薬品に関する商標登録はより重要になると言えます。
ところで、医療関係者の方には自明のとおり、医薬品の名称には、「一般名」と「商品名」があります。一般の方には意外と知られていないとも思われるので一応補足しておくと、「一般名」というのはその医薬品の有効成分の名称で、「商品名」というのは製薬会社が付けたいわゆるブランド名ということになります。
たとえば、副作用の少ない解熱鎮痛薬でよく知られる「カロナール」は、商品名が「カロナール」で、一般名は「アセトアミノフェン」となります。ルミナールタイプの乳がんで使われるアロマターゼ阻害薬でいえば、「フェマーラ」が商品名で、「レトロゾール」が一般名です。ちなみに、抗エストロゲン剤でいうと、「ノルバデックス」が商品名で、「タモキシフェン」が一般名ということになります。
医薬品に関する商標登録において、その主な登録対象となり、かつ重要となるのは、このうち「商品名」の方です。
なお、医薬品の場合は通常、事前に他の薬剤と類似名称にならないよう手当がされているはずですので、実務上のトラブルとしてよくある「他社が似たような商標を使っている」という点が問題になることは、あまりないように思われます。
商標登録がその効果を発揮するのは、むしろ医薬品に関する「偽造品」や「模造品」といったものが市場に出回ることを阻止したり、予防したりする場面にあると言えるでしょう。この点、薬機法でも規制はできるかもしれませんが、商標権があることはやはり大きな力になると考えられます。
近年は、インターネット通販等での医薬品の流通もさかんなことから、このような偽造品なども増えているようです。ちなみに、令和3年度の税関における医薬品の輸入差止点数は急増しており、「前年と比べて579.2%増加」したと報告されています。これらを取り締まるにも、商標登録が一役買っていることは間違いありません。
このように、医薬品に関する商標登録は非常に重要であり、実質的に「必須」と言っても過言ではないでしょう。この点は、医療用医薬品でも一般用医薬品でも変わりません。どの製薬会社も、まず間違いなく登録を済ませているというのが実状と言えます。
なお、ここでは医薬品の名称に関するお話をしましたが、製薬会社のロゴマークや会社名なども当然に商標登録の対象となり得ますし、それらの登録が同様に重要となることは言うまでもありません。
4.医薬品の名称に関する最近の商標登録例
それではここで、医薬品の名称に関する実際の商標登録例を見てみましょう。
比較的最近のものとして、たとえば以下のような登録が確認できます。
登録日:2021/12/24
権利者:塩野義製薬株式会社
・「テゼスパイア」(登録6477276号)
登録日:2021/11/26
権利者:アムジェン インコーポレイテッド
・「マンジャロ」(登録6435127号)
登録日:2021/08/27
権利者:イーライ リリー アンド カンパニー
・「グラアルファ」(登録6378872号)
登録日:2021/04/16
権利者:興和株式会社
・「リバゼブ」(登録6378873号)
登録日:2021/04/16
権利者:興和株式会社
上掲の商標は、あくまでほんのわずかな一例です。
これら以外にも、多数登録されています。
なお、商標権の効力は「類似の範囲」まで及ぶと上述しましたが、どこまでが「商標が似ている」と言えるかの基準は明確ではありません。近年、特に特許庁では、商標が似ている範囲はかなり狭く判断される傾向にあります。こういった点もあるためか、各製薬会社は、あらかじめ似たような商標も、防衛的に併せて登録しておくことも少なくないようです。
たとえば、「ゾコーバ」だけでなく「ゾコバ」も登録されていますし、「リバゼブ」だけでなく「リバゼベ」も登録されているのが見受けられます。
5.商標登録の対象となるのは他にもさまざま
今回のコラムでは、医療業界における一例として、医薬品に関する商標登録の話をしてまいりましたが、登録対象となるのはもちろんこの商品分野の商標だけではありません。
商標登録が重要な役割を果たすのは、商品が医療機器や医薬部外品等である場合も同様です。最近では、「ヘルステック」を活用した商品・サービスも続々と登場しており、これらに関する名称やロゴマークなどを商標登録によって適切に保護することも大切でしょう。
病院・クリニックの名称やシンボルマークも商標登録の対象になり得ます。
興味深い点として、各医師会が、ロゴマークやマスコットキャラクターのイラストを商標登録している例も、少なからず見受けられます。ちなみに、権利者が「〇〇〇医師会」である商標登録例を検索してみると、162件も存在していることが分かります(2022年12月22日現在)。
医療業界関係者の方々が、日々の仕事の中で商標登録を意識することはあまりないかもしれませんが、業界内において、決してその関わりや役割が小さいというわけではないという点を、ぜひ覚えておいていただければと思います。
そして、ご自身が関わる名称やマークで、もし商標登録が必要そうなものがあれば、1日も早く、出願をすることをご検討ください。商標登録は「早い者勝ち」であるという点を、忘れてはなりません!
※:関連リンク(当事務所ウェブサイト)
・「医療関連業界の商標登録ガイド」
・「お医者さんのための商標登録」
・「医薬品・医薬部外品・医療機器の商標登録」
・「薬局・ドラッグストアのための商標登録」