| サイトマップ | | プライバシーポリシー |

お問い合わせはこちら

商標の本採用前に、一度ご相談を!

<新着コラム> 2021年9月24日

おかげさまで、当事務所では、多くの商標相談をいただいております。
その中には、「商標登録をしたい」、「商標登録ができるか知りたい」といったご相談も少なくありません。しかし、その詳細についてお伺いすると、専門家として不安を感じざるを得ない回答が返ってくることがよくあります。

その一つが、そういったご相談をいただくタイミングについてです。

というのも、上述のようなご相談をいただくタイミングが、「実際に商標を使い始めた後」や、「商標を使い始める直前」であることが、意外と多いのです。

事業者の方々からすれば、「それの何が悪いのだ?」と思われるかもしれません。

ですが、もしも「実際に商標を使い始めた後」や「商標を使い始める直前」に、その商標に問題があることが判明した場合には、予想以上に大きなリスクや不利益が生じる可能性が考えられるのです。

そこで今回のコラムでは、その理由をご説明した上で、専門家に相談をする理想的なタイミングについて、述べてみたいと思います。少しでも、事業者の皆様のお役に立てば幸いです。


1.もしも、その商標がNGだったら・・・

「商標登録をしたい」、「商標登録ができるか知りたい」というご相談があった場合、当事務所ではまず、その商標と同じ商標や、似ている商標が、眼目となる商品・サービスの分野において、すでに他人によって登録されていないかをざっくりと検索いたします。

このような他人の先行登録商標が存在している場合、たとえその商標について登録出願をしたとしても、基本的に商標登録はできないとされているからです。商標登録制度についてあまり知らなくても、これは何となくイメージとして理解できる条件ではないかと思います。

さて、残念なことに、この時点で「NG」となる場合も少なくはありません
ほとんど「完全同一」の他人の登録商標が見付かることもしばしばです。

そして、こういった事実を相談者に報告すると、
あー、ダメなんですね。じゃあ、商標登録はあきらめますね~。
といった感じのリアクションをされる方が、意外といらっしゃいます。

しかし、事態はそんな「軽いノリ」では済まない、深刻な場合があります。
なぜなら、このような状況下で、その商標を実際に商品やサービスに使用すれば、その行為は、判明した他人の登録商標についての商標権侵害となる可能性があるからです。

商標登録だけをあきらめればそれで済む、という話ではないのです。
その商標を使うこと自体についても、使用中止の検討をしなければなりません。


2.商標の変更が、簡単には済まない場合がある

もし、そのような問題が判明するのが、まだ商標の考案段階だったらどうでしょうか?
当然、実際に商標を使うには至っておりませんので、後戻りは簡単です。
もう一度、別の商標を考え直せば済む話です。

一方、そのような問題が判明するのが、その商標を「実際に使い始めた後」や、「使い始める直前」であったらどうなるでしょうか?

「実際に使い始めた後」であれば、現時点ですでに、その他人の商標権を侵害している状態にあると言えます。至急、使用を中止して、商標の変更を検討すべき状況です

しかし、この場合、商標の変更は、それほど簡単な話ではないはずです。
商標の使用中止、変更というのは、予想以上に大変で費用もかかるからです。

たとえば、商品パッケージ、カタログ、広告物、看板、ドメイン名、ホームページ内の表記など、すべてを変更するには相当の労力、費用が必要となるでしょう。また、商標を変えるということは、せっかく築き上げた「ブランド」を自らの手で葬ることに等しく、これは金銭以上の損失を生じると言っても過言ではありません。

どうしても、もう後戻りできない場合は、その他人の商標登録の取消・無効を検討したり、その他人から商標権の譲渡や使用許諾(ライセンス)をしてもらうという手段もありますが、簡単な話ではないでしょう。費用や労力がかかるのは変わりませんし、最悪の場合、これらを端緒として相手方に侵害行為を知られ、本格的に責任を追及されることになるおそれもあります。

結局、いずれにしてもダメージを受けることは避けられない、ということになります。

なお、問題が判明するのが、その商標を「使い始める直前」であれば、まだ実際には使っていませんので、そこで使用開始を留まれば商標権侵害の責任は追及されずに済むでしょう。ですが、すでに準備をして保管していた商品パッケージや広告物などの作り直しについては免れません。また、直前でストップすれば、事業計画が大幅に狂うことも避けられません。「実際に使い始めた後」の場合よりはマシな状況だとは思いますが、受ける不利益が大きいことには変わりはないでしょう。

このように、他人の登録商標の存在によって、その商標が「NG」となる場合、判明するタイミングによっては、大きな問題につながりかねないことを、ぜひ事業者の皆様にはしっかりと認識しておいていただきたいと思います。


3.シンプル、キャッチーな名称の商標は要注意

「商標登録をしたい」、「商標登録ができるか知りたい」といったご相談を受けて、具体的な商標をお伺いした際、直感的に「これはもう誰かが登録しているだろうな・・・」と思うことがあります。そして検索をすると、その感覚はだいたい当たっています。

そのような商標は、シンプル、キャッチーな名称である場合がほとんどです
イメージの良い英単語や、その組み合わせであることが多いですね。

日本で商標登録がされている商標の総数は、約200万件と言われています。
これだけの件数がある中で、多くの人が思い付いたり、採用したいと思ったりする商標が、まだ誰にも登録されていない可能性は、かなり低いと考えた方が良いでしょう。

もちろん、商品・サービスの分野によっては、このような商標でも登録に「まだ空きがある」こともありますし、むしろシンプルすぎて実は誰も手を付けていなかったなどということだってあるとは思います。ただ、やはり「NG」となる可能性としては、一般的には高くなるであろうと言わざるを得ません。

そうすると、単に商標登録を狙うだけなら、造語的な商標とするのが良さそうだということになりますが、これはこれで、顧客による覚えやすさ、親しみやすさといった点などで、やはり懸念があります。そういった意味では、「造語的だけれども、シンプル、キャッチー」なネーミングというのが、「上手い」商標と言えそうですが、これを考案するのはなかなか簡単ではないはずです。

この点、ネーミングの奥深さというのを、あらためて実感するところですね。

いずれにしましても、シンプル、キャッチーな名称の商標は、一般的に「NG」となる可能性が比較的高くなると予想されますので、採用に際しては事前に十分に注意していただきたいと思います。


4.専門家に相談をする理想的なタイミングとは?

以上で見たように、「商標登録をしたい」、「商標登録ができるか知りたい」といったご相談をいただくタイミングが、その商標を「実際に使い始めた後」や、「使い始める直前」である場合、それがNGとなれば、生じ得るリスクは決して小さくはないと言わざるを得ません。

要は、「そのようなタイミングでは遅すぎる」ということです。

では、専門家には、どのタイミングで相談するのが理想的なのでしょうか?

それはズバリ、「商標を本採用する前」です。
「これはどうだろうか?」と、ネーミング案を考え出した時点が良いでしょう。

ネーミング案が複数出ている状況でも、まったく問題はありません。
専門家に相談する前に、わざわざ1つだけに絞る必要などないのです。
複数の案があれば、「この中から最終的に選ぶことを考えている」と伝えれば良いだけです。

このタイミングで専門家に相談すれば、たとえ「NG」が出た場合でも、まだ何も準備は進めていませんから、簡単に商標の変更が可能です。もちろん、残念な気持ちはあるとは思いますが、実質的なダメージとしてはほぼゼロで済むはずです。

また、複数の案がある場合は、どれが登録可能性や使用可能性が高そうかといったアドバイスも、専門家から受けることができます。これによって、本採用する商標の安全性は、より高まると言えるでしょう。

「そんなに早い段階で相談が必要なの?」と思われるかもしれませんが、早め早めの対策が有効なのは商標も同じです。そして、これによって、少なくともきわめて深刻なリスクは確実に回避することが可能となります。事業者の皆様には、ぜひ覚えておいていただきたいポイントです。


5.商標の本採用前には、必ず商標調査の実施を!

そうは言っても、「専門家に相談すると、お金がかかりそうだからイヤだ」とか、「具体的な商標については、まだ知られたくない」などと考える事業者の方もおられるかもしれません。

費用については、後々のリスクを考えれば決して高くはないとは思いますが、昨今の深刻な社会的状況の下では、このように感じるのもよくわかります。

もし、専門家に相談しない、相談できない事情があるのであれば、少なくとも上述のタイミングにおいて、ご自身で必ず商標調査を実施することをお勧めいたします。

調査の方法についてはここでは触れませんが、特許庁の「商標を検索してみましょう」のページが参考になりますので、ぜひご覧ください。

ただ、ここに書かれた程度の調査方法では不十分だと言わざるを得ません
また、ご自身で調査をする場合、何をもって商標が「似ている」と言うのか、おそらく判断が難しいのではないかと思います。

なお、専門家に相談する場合も、商標調査の実施というプロセスは基本的に同じです。
(ただ、この場合は、商標実務のプロである弁理士等が調査を行ないます。)

失礼ながら、「素人」と「プロ」による調査の精度の違いは非常に大きいです。
一度ご自身で調査にチャレンジしてみて、不安や問題を感じるようであれば、やはり無理をせず最初から専門家に相談されるのが、よろしいのではないかと思われます。


おわりに

「商標登録をしたい」、「商標登録ができるか知りたい」といったご相談をいただくタイミングが、「実際に商標を使い始めた後」や、「商標を使い始める直前」である場合、その商標がNGであることが判明すれば、大きなリスクを抱えることになりかねません。

一方で、「商標を本採用する前」、すなわち、ネーミング案を考え出した時点でご相談をいただければ、仮にその商標がNGであることが判明したとても、商標の変更は容易であり、ダメージもほとんどありません。再考も、比較的余裕をもって行えるはずです。

商標や商標登録については、ぜひ早め早めのご相談を、意識してほしいと思います。
これによって、より安心・安全な商標の使用、事業の継続にも繋がるはずです。