数字で見る商標登録と商標登録出願(2021年版)
<新着コラム> 2021年7月14日
昨年10月のコラムでは、2019年にされた日本における商標登録出願・商標登録の具体的な数字を考察しました。今回は、昨年2020年の統計を、引き続き見てみましょう。
昨年は、何といっても経済に大ダメージを与える出来事があり、世の中の社会的状況も一変しました。このような状況下で、商標登録出願の数はどのように変化しているのか、気になるところです。
なお、統計情報については、特許庁の「特許行政年次報告書2021年版」を参考にしておりますので、より詳細を知りたい方はこちらもご覧ください。
1.2020年の商標登録出願の件数
昨年2020年の商標登録出願件数は、18万1072件でした。
2019年の19万773件よりも、約1万件が減少したと言えます。
昨年の深刻な社会的状況を踏まえれば、減少はやむを得ないと言えるでしょう。
商標登録にもそれなりの費用がかかりますから、出願をしたくとも資金面で余裕がなかったという事業者も、おそらく少なくはないと予想されます。
個人的にはむしろ、よくこの程度の減少数で済んだと思います。
2021年7月現在も、深刻な社会的状況は変わっておりませんが、世の中はこの先いったいどうなってしまうのか、気になるところです。
なお、このうち国際商標登録出願を除くと、16万3148件ということです。
また、2020年の中小企業による出願は、8万3007件だったということです。
2019年の9万4532件と比べて、12.2%減という結果となりました。
やはり、昨年は中小企業へ与えたダメージが少なくないことを物語っています。
そして、中小企業の全体数(約358万社)を考えると、残念ながら、相変わらず出願件数は少ないと言えそうです。
2.2020年の商標登録の件数
昨年2020年の商標登録件数は、13万5313件でした。
これは、出願されたもののうち、特許庁の審査をパスして登録料を納付した数です。
2019年は10万9859件でしたので、約2万5000件も増加しています。
なお、これに合わせるように、昨年は登録査定の数も激増しています。
2019年は11万7186件だったのが、2020年は14万6708件だったとのことです。
登録査定の数は、約3万件も増加したことになります。
審査期間の長さは特に変わっていないようですので、特許庁の処理件数が増えた(特許庁が頑張った)のが要因だと考えられそうです。特許庁でもテレワーク実施の状況にある中、これは素晴らしいことではないでしょうか。
ただ、考え方によっては、「拒絶理由通知があまり出なかった」という可能性もあります。この点、審査の質が上がったためか、下がったためかは判断できませんが、いずれにしても、それだけ早期権利化が期待できるというのは、良いことだと思われます。
3.2020年の審判請求・異議申立ての件数
特許庁の審査で「登録を認めない」という判断(拒絶査定)がされても、不服申立ての手続として、「拒絶査定不服審判」を請求することができます。
昨年2020年に、商標登録出願の拒絶査定不服審判が請求された数は742件でした。
2019年の請求数は811件でしたので、約70件の減少となります。
昨年2020年の「商標登録異議申立て」の件数は、360件でした。
2019年は384件でしたので、わずかに減少したと言えます。
また、昨年2020年の「無効審判」の請求件数は、87件でした。
2019年は88件でしたので、ほぼ横ばいです。
審判請求・異議申立ての件数も、昨年は全体的に減少傾向となりました。
ただ、昨年の社会的状況を考えれば、出願件数と同じように、よくこの程度の減少数で済んだなというのが、個人的な感想です。
なお、取消審判の請求件数や、出訴件数など、その他の統計に関する情報は、前掲特許庁のウェブサイトをご参照ください。
おわりに
昨年2020年は、深刻な社会的状況となった影響もあり、商標登録出願の件数をはじめ、商標に関する特許庁における手続は、全体的に減少傾向となりました。
しかしながら、極端に数が減っているわけではなく、むしろよく持ち堪えているという印象を受けます。社会情勢が変わっても、事業者にとって商標登録がそれだけ重要であることに変わりはないという証左と言えるかもしれません。
一方で、商標登録件数や登録査定の件数は、激増している点にも注目です。
さて、来年はどのようになっていくのでしょうか。
今後、世の中のすべてが良い方向に向かっていくことを祈る次第です。