コロナ禍における商標登録出願件数の考察(後編)
<新着コラム> 2020年9月8日
新型コロナウイルス感染症の脅威が続いています。
わが国では、劇的に感染者数が増えているというわけではありませんが、
現在も依然として、楽観できる状況とまでは言い難いという印象です。
さて、2020年5月20日付コラムでは、「コロナ禍における商標登録出願件数の考察(前編)」として、主に本年2月~3月のわが国における商標登録出願件数について、昨年の出願件数との比較を通じた分析などに言及しました。その結果として、件数自体は減っているものの、「劇的に減っているわけではなく、予想していたよりも意外と多い」ことが推測できました。
その後、5月25日には緊急事態宣言が全国的に解除。
少しずつですが、「経済を回す」ことにも重きが置かれるようになりました。
それから約3か月が経ちましたが、出願件数の状況はどうなったのでしょうか?
今回のコラムでは引き続き、本年4月~7月のわが国の商標登録出願件数について、
昨年の出願件数との比較などを行ない、考察してみたいと思います。
なお、本コラム中の分析・考察は、あくまで代表弁理士による個人的なものです。
数値などについては、誤差や不正確なものも含まれている可能性があります。
この点、ご了承いただき、あくまでご参考程度に留めていただければと存じます。
※本コラムの内容は、2020年9月7日時点の調査等に基づくものです。
1.商標登録出願件数の比較(4月~7月)
今回は、緊急事態宣言に起因する自粛期間であった4月~5月と、解除後の6月~7月における出願件数について見てみたいと思います。
J-PlatPatで検索したところ、本年4月~7月における商標登録出願の件数は、以下のとおりでした。 ※出願却下となった出願の件数も含まれます。
2020年4月 13,465件(1,303件) → 12,162件
2020年5月 19,485件(8,390件) → 11,095件
2020年6月 13,990件(41件) → 13,949件
2020年7月 13,572件(44件) → 13,528件
合計 60,512件(9,778件)→ 50,734件
左側の件数が、純粋な出願件数となります。
カッコ内にある件数が、B社及びU氏による出願件数です。
そして、右側の件数が、B社及びU氏による出願を除いた出願件数となります。
では、昨年(2019年)の出願件数はどうであったか見てみましょう。
2019年4月 21,161件(6,039件) → 15,122件
2019年5月 13,156件(43件) → 13,113件
2019年6月 15,648件(1,928件) → 13,720件
2019年7月 14,973件(67件) → 14,906件
合計 64,938件(8,077件)→ 56,861件
B社とU氏による出願を除いた全体件数を比較しますと、全体としては約6,000件が減少していることがわかります。特に自粛期間の真っ只中であった4月だけで、その半分にあたる約3,000件が減少しているようです。
一方、緊急事態宣言が解除された直後の6月は、出願件数は回復し、実質的には昨年よりもわずかに増えていることが推測できます。しかしながら、再び感染拡大の前兆がジワジワと見られ始めた7月に入ると、4月や5月ほどの割合までないものの、再び減少傾向となってしまったようです。
昨年の各月の社会状況や諸事情もありますので、単純な数の比較はできませんが、それでも増減の傾向としては、納得がいくものとなっているように思います。
特に、6月にはB社及びU氏による出願を除いた全体件数が、昨年よりわずかに増加していると見られる点は、コロナ禍の中でも希望を感じるものがあります。
なお、4か月で約6,000件が減少しているということは、1か月平均で約1,500件、1日平均で約50件が減少していることになりますが、これは平時の1割程度と考えられます。現在の世界的な社会情勢を考えれば、やはり前回見た通り、「劇的に減っているわけではなく、予想していたよりも意外と多い」と言うことができるのではないかと思われます。
2.称呼に「コロナ」を含む出願件数の比較
では、「コロナ」の文字を含む商標の出願件数は、その後どうなったでしょうか?
J-PlatPatで、本年4月~7月に出願され、商標に「コロナ」の称呼を含む商標登録出願件数を調べたところ、101件がヒットしました。ただし、このうちB社及びU氏による出願が22件ありましたので、これらを除くと79件ということになります。
ざっと確認したところ、やはりほとんどが「コロナウイルス」に由来する商標のようでした。コロナ禍の中、「コロナ」関連の商標登録出願は依然として出され続けていると言えそうです。
~今回のまとめ~
緊急事態宣言の発令後、商標登録出願件数は減少したと言えます。
しかし、解除後は一時的に昨年並みに戻り、徐々に回復していると言えそうです。
やはり、コロナ禍の中でも商標登録出願が劇的に影響を受けているわけではなく、
4月~7月においても、「予想していたほど減ってはいない」という印象です。
また、「コロナ」を含む商標の出願は、依然として出され続けているようです。
今年も、残すところ約4か月。
さすがに、年間で昨年並みの件数の商標登録出願がされることは難しいと思われますが、残り4か月でどこまで回復できるか、楽しみです。なお、「特許行政年次報告書2020年版」によれば、昨年の商標登録出願数は、190,773件とされています。
今後また機会があれば、本コラムにて考察等を行ないたいと思います。
まずは、1日も早いコロナ禍の世界的な終息を祈る次第です。
(了)