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商標審査基準の改訂(改訂第15版)

<新着ニュース> 2020年4月24日

先般、「商標審査基準」が改訂され、令和2年4月1日以降の商標登録出願に適用されています。

今回の改訂では、企業が「店舗の外観・内装や複雑な物品の形状」を、商標登録によってより適切に保護することができるよう、立体商標の出願方法について見直しがなされました。

実務上は、主に事業規模の大きい企業等に影響のある話になろうかと思います。
その中でも、主にサービス業の分野が対象となりそうです。
よって、ほとんどの事業者にとっては、実質的に関係がない改訂かもしれません。

ですが、使い方によっては、中小規模の事業者にとっても、この改訂に基づく商標登録が、将来的に自社の事業における大きな武器となる可能性も考えられます。

そこで、今回の商標審査基準の改訂ポイントを見ていきたいと思います。


1.改訂のポイント

特許庁のウェブサイトによれば、今回の商標審査基準の改訂ポイントとして、以下のように挙げられています。

(1)現行審査基準の立体商標の項を論点ごとに整理するとともに、
 店舗の外観・内装に係る立体商標の事例を追加(商標法第3条第1項柱書)。

(2)商品等の形状からなる立体商標の識別力の審査について、
 商標審査便覧に記載されている判断基準を追記。

 また、建築、不動産業等を指定役務とする場合に、
 立体商標の形状が建築物の形状そのものの範囲を出ないと認識される
 にすぎないときは識別力無しとする判断について、建築物の形状に
 「内装」の形状を含むことを追記(商標法第3条第1項第3号)。

 ・・・第3号に該当しない店舗等の形状からなる立体商標についても、
 上記3号と同様の趣旨から必要な修正を行った(商標法第3条第1項第6号)。

(3)立体商標における出願商標と使用商標との同一性判断において、
 商標を構成しない部分を考慮しないことを追記(商標法第3条第2項)。

(4)立体商標の類否判断において、商標を構成しない部分を除いて、
 商標全体として考察すること、及び位置商標との類否関係を追記
 (商標法第4条第1項第11号)。

(5)出願時に著名となっている、他人の建築物の「内装」の形状及び
 建築物に該当しない店舗等の形状は、出所の混同を生じるものと判断する
 ことを追記(商標法第4条第1項第15号)。

(6)商標の詳細な説明の記載による立体商標の特定の考え方について、
 新しいタイプの商標に準じて整理し、店舗の外観・内装に係る立体商標の
 事例を追加(商標法第5条第5項)。

(7)立体商標の要旨変更について、新しいタイプの商標に準じて整理
 (商標法第16条の2)。

「ポイント」と言いながら、盛りだくさんの項目があります。
あまり商標実務に詳しくない方にとっては、わかりにくいかもしれません。

そこで、この中でも実務上、特に重要と考えられるポイントを挙げれば、
以下のようになろうかと思います

1.店舗や車両等の外観・内装が、立体商標の一類型として、
 商標登録による保護対象となりえやすくなった。


2.願書に立体商標を記載する際に、
 商標登録を受けようとする立体的形状とその他の部分を描き分ける記載方法
(実線、破線等による描き分け)が可能になった。


3.立体商標を出願する際に、
 必要に応じて「商標の詳細な説明」の記載が可能になった。

 なお、「2」のように描き分ける場合は、
 「商標の詳細な説明」の記載は必須となる。


2.改訂内容の詳細

次に、条項ごとの改訂点の詳細を見てみたいと思います。

ただし、改訂点のすべてをレビューするとかなりの分量になりますので、その中でも特に注意すべきと考えられる内容のみ、ここでは取り上げます。
したがって、すべての改訂点に言及しているわけではない点、ご承知ください。

詳細につきましては、「商標審査基準(改訂第15版)」をご参照ください。
本ページに掲載している商標見本の例は、商標審査基準のものを引用しています。


(1)3条1項柱書関係

店舗や車両等の外観・内装が、立体商標の一類型として、商標登録による保護対象となりえやすくなりました。そして、願書に立体商標を記載する際には、商標登録を受けようとする立体的形状とその他の部分を描き分けることが可能となりました

たとえば、商標見本を以下のように記載することが可能です。

実線だけで記載した商標見本の例
 ※実線だけで記載した商標見本

※実線と破線で描き分けた商標見本の例
 ※実線と破線で描き分けた商標見本

なお、実線と破線で描き分けている場合、以下に該当するときは「立体商標と認められない」とされているため、注意が必要です。

(ア)立体商標と認められない例
(例)
 ① 実線・破線等の描き分けがあるが、商標の詳細な説明の記載がない場合
 ② 実線・破線等の描き分けがあり、商標の詳細な説明の記載があるが、
 商標を構成しない部分(破線等)の説明がない場合

これによれば、実線と破線で描き分けた商標が立体商標と認められるためには、

 ① 願書に「商標の詳細な説明」を記載すること
 ② 「商標の詳細な説明」に、「なお、破線は、店舗の形状の一例を示した
 ものであり、商標を構成する要素ではない」等といった説明をすること


が必要になりますので、注意する必要があります。

なお、願書に記載した店舗の外観などの立体商標のうち、商標を構成する部分の端が、以下のように商標記載欄の枠で切れている場合、立体商標とは認められないとされていますので、商標見本には細心の注意が必要と言えます。

商標を構成する部分の端が切れている商標見本の例
 ※商標を構成する部分の端が切れている商標見本

ただし、内装の場合には、以下のように取り扱われるとされています。

 内装のように立体的形状の内部の構成を表示した立体商標であって、
当該立体商標の端が商標記載欄の枠により切れることがやむを得ない場合は、
商標の詳細な説明の記載により立体的形状の内部の構成を表示した立体商標
である旨を明らかにした場合に限り
、商標記載欄に記載された範囲で
立体商標としての構成及び態様が特定されていると判断する。

つまり、内装の場合は、以下のようにやむを得ず端が切れていても、「商標の詳細な説明」に、たとえば、「この商標登録出願に係る商標(以下「商標という。」)は、店舗の内部の構成を表示した立体商標であり・・・」のように記載しておけば、立体商標と認められることになります。

やむを得ず商標を構成する部分の端が切れている商標見本の例

以下のように、外観・内装の双方を含む立体商標というのもあり得ます。

外観・内装の双方を含む立体商標の例
 ※外観・内装の双方を含む立体商標の例

なお、「商標審査便覧」によれば、商標を構成しない部分(破線等)の端が切れていても、商標を構成する部分(実線等)の端が切れていなければ、3条1項柱書の要件を満たすとされています。



(2)3条1項3号、3条1項6号関係

立体商標の識別力の判断に関する考え方として、今回の改訂により特に注意が必要となるのは、以下の点と言えるでしょう。

<3条1項3号>

(2)建築、不動産業等の建築物を取り扱う役務を指定役務とする場合に、
 商標が立体商標であり、その形状が建築物の形状(内装の形状を含む。)
 そのものの範囲を出ないと認識されるにすぎないときは、
 その役務の「提供の用に供する物」を表示するものと判断する。

つまり、このような場合は、「識別力がない」と判断されることになります。

3号に該当する例としては、指定役務「建築物の建設」について取引の対象となるビルの外観の立体的形状、指定役務「輸送」について鉄道車両の内装の立体的形状、指定役務「飲食物の提供」についてキッチンカーの立体的形状等が挙げられます。

なお、上記に該当しない店舗等の形状からなる立体商標についても、以下に該当する場合には、3条1項6号により「識別力がない」と判断されます

<3条1項6号>

8.店舗、事務所、事業所及び施設(以下「店舗等」という。)の形状からなる商標について

  立体商標について、商標が、指定商品又は指定役務を取り扱う店舗等
(建築物に該当しないものを含む。例えば、移動販売車両、観光車両、
 旅客機、客船)の形状(内装の形状を含む。以下同じ。)にすぎないと
 認識される場合(第3条第1項第3号に該当するものを除く。)は、
 本号に該当すると判断する。

以上を踏まえれば、店舗等の外観について、立体商標としての識別力が認められるためのハードルは、基本的になかなか高いように予測されます。

内装についても、同様と考えられます。
「「商標審査基準」改訂案に対する御意見の概要及び御意見に対する考え方について」において、特許庁は以下のように回答しています。

(1)御指摘のとおり、店舗の内装の形状は、基本的には美感(又は機能)
 に資する目的のために採用されるものと考えられます。
 そのため、その形状については、使用による識別力を獲得しない限り、
 原則として識別力を有さず、登録は認められない
と整理しており、
 現状、この整理に変更の必要はないと考えております。




(3)3条2項関係

3条2項(使用による識別力の獲得)適用のための出願商標と使用商標の同一性の判断について、今回の改訂で「3.立体商標について」の項目が追加されています。

3.立体商標について
(1)本項の適用が認められる例
 使用商標中に、出願商標以外の標章が含まれているが、出願商標部分が
 独立して自他商品・役務の識別標識として認識されると認められる場合。

(例)
 ① 出願商標が立体的形状のみであり、使用商標として同一の立体的形状に
 文字が付された写真が提出されたが、当該立体的形状部分が、需要者に
 強い印象を与え、独立して自他商品・役務の識別標識として認識される場合。

 ② 出願商標と使用商標の立体的形状の特徴的部分が同一であり、
 当該特徴的部分以外の部分にわずかな違いが見られるにすぎない場合
 であって、当該特徴的部分が独立して自他商品・役務の識別標識として
 認識される場合。

(2)本項の適用が認められない例
 使用商標が、出願商標と相違する場合(標章の相違)。

(例)
 ① 出願商標と使用商標の立体的形状に大きな違いが見られる場合。
 ② 出願商標が立体商標であるのに対し、使用商標が平面商標である場合。

(注) 商標に係る標章を実線で描き、その他の部分を破線で描く等の
 記載方法を用いた出願商標と使用商標との同一性の判断において、
 標章の位置を特定するために出願商標に係るその他の部分を考慮する位置商標
 と異なり、立体商標については、出願商標に係るその他の部分は考慮しない

最後の注意書きにあるように、実線と破線で描き分けた場合、立体商標と位置商標では判断手法が異なる点には注意が必要でしょう。




(4)4条1項11号関係

立体商標の類否判断について書かれた「5.立体商標について」に、今回の改訂で以下が追加されています。

(ウ)立体商標と位置商標との類否の判断は、10.(2)(イ)を準用する。

(2)商標に係る標章を実線で描き、その他の部分を破線で描く等の
 記載方法を用いた立体商標の類否の判断は、当該その他の部分を除いて、
 商標全体として考察しなければならない

「当該その他の部分を除いて、商標全体として考察しなければならない」というのが、わかったようでよくわからない気もします。このあたりは、審査等における判断例の蓄積を注視する必要がありそうです。




(5)4条1項15号関係

4条1項15号の該当性の判断について書かれた「3.建築物等の形状を表示する立体商標について」に、今回の改訂で新たに(2)が追加され、従来からあった内容が(1)とされています。

3.建築物等の形状を表示する立体商標について
(1)建築物の形状(内装の形状を含む。以下同じ。)が当該出願前から
 他人の建築物の形状に係るものとして我が国の需要者の間に
 広く認識されているときは、本号に該当するものとする。

(2)建築物に該当しない店舗、事務所、事業所及び施設の形状
 (内装の形状を含む。)についても、上記と同様に取り扱う。

 (建築物に該当しない店舗、事務所、事業所及び施設の例)
   移動販売車両、観光車両、旅客機、客船

実際の審査において、審査官がいったいどういった資料等を参考に著名な店舗等や内装を認定するのか、興味深いところです。




(6)5条関連

願書の記載方法について書かれた「4.「商標の詳細な説明」及び「物件」について」に、今回の改訂で「(1) 立体商標について」が追加されています。

(1)立体商標について
 (ア)立体商標を特定するものと認められる例
  立体商標を構成する標章についての具体的かつ明確な説明が記載されている場合。
立体商標を特定するものと認められる例1
立体商標を特定するものと認められる例2

(2)立体商標を特定するものと認められない例
 ① 願書に記載した商標と商標の詳細な説明に記載されている標章が
 一致しない場合(願書に記載した商標に記載されていない標章が、
 商標の詳細な説明に記載されている場合を含む。)。

  ② 願書に記載した商標が、標章を実線で描き、その他の部分を
 破線で描く等の記載方法を用いた立体商標である場合に、
 商標の詳細な説明に当該その他の部分の記載がされていない場合

立体商標を実線と破線で描き分けた場合は、「商標の詳細な説明」の記載に不備がないよう注意する必要がありそうです。



(7)その他

その他にも、立体商標の要旨変更に関する改訂点などがあります。
商標審査便覧」も改訂されていますので、こちらも確認しておくと、より理解が深まるでしょう。



3.まとめ

今回の商標審査基準の改訂に伴い、店舗や車両等の外観・内装が、立体商標として商標登録の対象となり得やすくなったと言えます。しかしながら、実際には、識別力の観点から、登録のハードルは基本的になかなか高いことが予測されます。

また、実際に出願をする場合、商標見本の作成や「商標の詳細な説明」の記載には、特に注意を払う必要があると言えるでしょう。

なお、意匠法の改正により、同じく4月1日から、建築物(不動産)の意匠登録が可能となっています。意匠登録と商標登録のどちらが保護手段として理想的なのか、この点もしっかり事前検討することが大切になりそうです。