商標登録制度の周知徹底を!
<新着コラム> 2019年10月29日
先日、ネットニュース等で、ある「商標トラブル」が話題となりました。
この騒動の内容や、世の中の反応を知るにあたり、商標登録制度が一般にどれだけ知られていないか、また、理解されていないかを思い知らされました。
そこで、今回はこの騒動についてコメントしたいと思います。
1.商標トラブルの内容
報道によれば、人気「たこ焼きチェーン店」を経営する会社が、同じ店舗名を使っている飲食店に対して、商標権侵害を指摘する内容証明(通知書)を送付したということです。
今回、商標権侵害を指摘されたのは、日本各地の個人経営の飲食店とのことで、それらは「焼き鳥店」、「沖縄居酒屋」、「沖縄料理店」、「お好み焼き店」などを営んでいたそうです。
そして、突然の通知に各店の店主は困惑し、中には長年使っていた店名を変更するにいたった店舗もあったとのことです。
2.予想外の世の中の反応
今回のようなトラブルは、実はめずらしいことではありません。
事業者が商標登録をせずに事業を営んでいたり、他人の商標登録を確認せずに事業を営んでいる場合に遭遇する典型的な失敗例の1つと言えます。
このような通知書の送付は、全国各地で日々行われているものです。
※ご参考:「商標登録をまだしたことがない事業者の方へ」
※ご参考:「商標登録をしないとどうなるのか」
ですから、商標実務に携わっている方々や、我々商標専門家からすれば、「ほら、見たことか」とか「自業自得でしょ」という感想が出るのが正直なところでしょう。
「こういうことがあるから、商標登録や商標調査は絶対やってくださいねと、あれほど言っているのに・・・」と思う弁理士も少なくないはずです。
しかし、本件に関する世の中の反応は、予想外のものでした。
たとえば、某SNSのツイートをざっとチェックしてみたところ、
・(たこ焼きチェーン店)、ひどい!
・(たこ焼きチェーン店)、せこい!
・通知を受けたお店がかわいそう。
・店名を変えさせられて気の毒。
などといった趣旨の感想が多くを占めていました。
中には、「(たこ焼きチェーン店)にはもう行かない」という内容までありました。
3.たこ焼きチェーン店側がなぜか悪者に・・・
このように、世の中の論調では、たこ焼きチェーン店側が、あたかも悪者のように扱われてしまっています。これには、たこ焼きチェーン店側もさすがに想定外だったのではないでしょうか。
普通に考えれば、たこ焼きチェーン店の商標権という権利を侵害する疑いのある飲食店側が、どちらかと言えば「悪者」のはずです。たこ焼きチェーン店側としては、勝手に自分の土地に入ってこようとする人に「勝手に入るな!」と言ったり、勝手に自分の物を持ち去ろうとする人に「勝手に取るな!」と言っているようなものです。つまり本件では、商標登録をして取得した商標権に基づき、「勝手に使うな!」と言っているにすぎません。
たしかに、報道では飲食店側の同情を誘う文調があったのも否定できません。
また、商標権を実際に行使するかどうかは権利者の裁量次第ですので、「地方でひっそり経営している個人店まで本当にターゲットにする必要があるのか?」という感覚も、もちろん人情としてはわからなくもありません。
しかし、商標登録制度の趣旨や目的に基づけば、たこ焼きチェーン店側としては、適切な法的措置をとったにすぎません。やり方にはたしかに賛否あるかもしれませんが、やっていることは正当な権利の行使であり、何ら落ち度も違法性もありません。これを「悪者」扱いするのはあきらかに「筋違い」ですし、感情論でこのような風潮が広まるのには危機感を覚えます。
4.商標登録制度の不知と理解不足が原因
それでは、なぜこのような誤解が多く生じてしまったのでしょうか。
その原因としては、やはり商標登録制度について知られていないことや、十分に理解がされていないことが考えられるでしょう。これは、事業者の方々、一般の方々の両方に言えることだと思います。
(2)商標は、特許庁に「商標登録」することができる。
(3)商標登録をすると、「商標権」という権利が取得できる。
(4)商標権があると、その商標を独占して事業で使うことができる。
(5)商標権があると、他人が勝手に似た商標を事業で使うのを禁止できる。
(6)商標登録は「早い者勝ち」。だから、1日も早く出願する必要がある。
これらを知っているだけでも、ずいぶん感じ方は変わるのではないでしょうか。
※ご参考:「商標登録とは?」
もちろん、商標登録は、他人に嫌がらせをするための道具ではありません。
商標をしっかりと保護することで、自分のブランドや信用を守り、それによって商品やサービスのお客様の利益も守り、健全な取引や流通秩序を維持していくためのものです。
今回、たこ焼きチェーン店側が個人経営の飲食店に通知を出したのも、自社のブランドや信用を守るためであって、決して個人経営者をいじめるような意図はないでしょう。とはいえ、あえて見逃して例外を作れば、別の悪質なフリーライド(ただ乗り)を誘発する可能性もあるためやむを得ず、といった経営判断に基づくものと予想されます。
5.おわりに ~商標登録制度の周知徹底を!~
今回の件で、商標登録制度が世の中でいかに知られていないかを実感しました。
「ビジネスをするなら、商標登録と商標調査は必須!!」
これを事業者の間で常識として浸透させるのも、我々弁理士の役目だと思います。
私もできる範囲で、商標登録制度の周知徹底により一層努めたいと考えています。
また、一般の方々にも、できるだけ興味を持ってもらうことが大事でしょう。
商標登録については、普通の学校では習いません。
ですから、SNSで上記のような感想が出るのも、ある意味しかたがないことです。
しかし、これからの時代は、個人でビジネスをする人や、フリーランスの数も増えてくると考えられます。一般の方々の間でも、商標登録を始め、知的財産の基礎知識を得ることは将来必ず役に立つと思われます。
こういった面でも、今後何らかのサポートができればと思っております。