商標が略される場合の一考察
<新着コラム> 2019年8月16日
商品名・サービス名・店舗名などの商標が、略されて用いられる場合があります。
たとえば、「プレイステーション」を「プレステ」、「スターバックス」を「スタバ」、「ファミリマート」を「ファミマ」と略すなど、身近な例でも様々です。
商標が略される場合、その商標が2語以上から構成されることが多いと言えますが、どのような場合に略される対象となり得るのでしょうか。
また、略された語については、商標登録をすべきでしょうか。
今回は、これらの点について考えてみたいと思います。
1.商標が略されるパターン
商品名・サービス名・店舗名などの商標が略されるパターンとしては、以下の場合があると考えられるでしょう。
(1)使用者自身が略して用いる場合
まず、商標の使用者が自ら、その商標を略したものを用いる場合があるでしょう。
商標をキャッチーにして、顧客やユーザーに覚えてもらいやすくしたり、愛着を持ってもらいやすくしたりする狙いが考えられます。
最近は、スマートフォンやタブレット向けのアプリを用いたビジネスが盛んですが、ホーム画面にアイコンとともに表示するアプリ名は、シンプルなものが好まれるようです。このアプリ名として、自ら使用する商標を略した語が使われる場合も少なくありません。
なお、余談ですが、最近の商品名・サービス名のトレンドとしては、4文字程度のものが多いように見受けられます。この傾向は、利用するアプリ名を当初より意識しているという事業者の思惑があるのかもしれません。
(2)顧客やユーザーが略して用いる場合
次に、商標の使用者自身はまったく意識していないところで、その顧客やユーザーが商標を略した語を使い始めるという場合があるでしょう。
この場合、多くはその商品・サービス・店舗が広く顧客に受け入れられ、信用や愛着を獲得しているゆえであり、事業者にとっては喜ばしい状況と言えるでしょう。
商標が略される一般的なパターンが、こちらになるかと思われます。
(3)顧客やユーザーが略した結果、使用者自身も用いる場合
上記(2)の過程を経て、(1)となる場合もあるでしょう。
すなわち、最初は商標の使用者自身はまったく意識していなかったものの、顧客やユーザーがその商標を略した語を使い始めたため、自身も用いるようになったというケースです。
これは、事業者にとっては、世間に自身の商標が受け入れられたことを確認できるとともに、一層のブランド化をめざすチャンスと言えます。また、顧客やユーザーからしても、自分たちが受け入れられたとという満足感を感じられるため、ますます商品やサービスのファンになるでしょう。
2.商標登録は必要か?
商標を略した語も、商品やサービスの識別標識としての機能を発揮するのであれば、それもまた商標になります。では、このような商標については商標登録をすべきなのでしょうか。
まず、上記(1)のように、その商標の使用者自身が、これを略した語についても使用するのであれば、独占排他権の確保のためにも商標登録はすべきでしょう。
また、上記(2)のように、その商標の使用者自身は使っていないものの、顧客やユーザーが商標を略した語を使っているような場合も、積極的に商標登録を検討すべきと考えます。
たしかに、上記(2)の場合、事業者自身は使っていないため、使用独占の確保までは必要ないとも考えられます。しかし、商標登録をしていないと、他社にその略された語を、同様の商品・サービスに使われても、原則としてやめさせることができません。これを放置すれば、顧客やユーザーも混乱しますし、その結果、これまでに築いてきた信用や親近感に傷が付くことにもなります。また、他社に先に商標登録をされてしまったら最悪です。
ですから、やはり防衛的な観点より、積極的な商標登録を検討すべきでしょう。
商標登録をしておけば、上記(3)のように後から事業者自身が使用することになった場合にも、安心・安全に使い続けることができます。
なお、略した語自体が、商標として周知・著名となっていれば、商標法第4条1項10号や15号の規定によって、他社は原則として商標登録をすることはできません。また、そのような場合は、他社の使用に対しても不正競争防止法の規定に基づき、使用差止め等を求めることも可能です。ですから、「自分が商標登録までする必要はないのではないか?」と、疑問を感じることもあるかもしれません。
しかし、周知・著名性は、実はそう簡単に認められるものではありません。また、これをすり抜けて他社が商標登録を受けた場合、たしかに異議申立てや無効審判の請求で対抗することもできますが、それらにかかる労力や費用は決して少なくはありません。正直なところ、最初から商標登録をしておいた方が、数倍ラクだと言えるでしょう。
ご存じの通り、最近では「マリカー事件」のような例もありますので、やはり商標登録は積極的かつお早目に検討されることをオススメいたします。
ちなみに、略した語について商標登録をする場合、指定商品や指定役務をどこまで含めるかという問題が考えられます。この場合、元の商標の眼目となる商品・サービス分野については当然必要ですが、略した語の内容やイメージから、他社に使われやすそうな商品・サービスについても含めておくことが望ましいと言えます。もちろん、それを考え出すとキリがない部分もありますので、費用対効果を検討して、優先度をつけることも大切になるでしょう。
3.商標を略した語の商標登録例
本記事の執筆にあたって、商標を略した語について思いつくままに検索したところ、意外と多くの商標登録例が見られましたので、最後にそれらの一例を紹介いたします。
ゲーム系がやはり多いように思われました。
※登録番号等については割愛し、()内には元の商標を記します。
※下記の情報は、2019年8月中旬現在のものです。
- ファミコン(ファミリーコンピュータ)
- スーファミ(スーパーファミコン)
- メガドラ(メガドライブ)
- プレステ(プレイステーション)
- スーマリ(スーパーマリオブラザーズ)
- ドクマリ(ドクターマリオワールド) ※2019年8月現在審査中
- マリカー(マリオカート)
- ドラクエ(ドラゴンクエスト)
- ポケモン(ポケットモンスター)
- ココイチ(カレーハウスCoCo壱番屋)
- ファミマ(ファミリーマート)
- スタバ(スターバックスコーヒー)
- ドンキ(ドン・キホーテ)
- ヨドバシ(ヨドバシカメラ)
- ビック(ビックカメラ)
- INSTA(Instagram)
- パズドラ(パズル&ドラゴンズ)
- グラブル(グランブルーファンタジー)
- 星ドラ(星のドラゴンクエスト)
- アイマス(アイドルマスター)
- デレステ(アイドルマスター シンデレラガールズ スターライトステージ)
- プリコネ(プリンセスコネクト)