超音波診断と商標調査に見る共通点
<新着コラム> 2018年6月27日 by 永露祥生
先日、特許庁の「平成29年度特許出願技術動向調査(1)-超音波診断装置-」を拝読しました。これによれば、超音波診断装置は、画像診断技術として、近年ますます重要視されているとのことです。
中でも、光音響・熱音響イメージング等のイメージング技術が、将来的に有望な技術と考えられており、乳がん診断などでの応用が期待されているということでした。
超音波診断
さて、皆様もご存じの通り、「超音波診断」は「エコー」とも言われるもので、主に医療分野などで活用されています。CT検査のように被ばくもしないため、身体への負担も軽く、検診などでも多く用いられています。
ただ、この超音波診断は、操作者や検査者の技術レベルや熟練度によって、結果に差が出やすいとも言われています。たとえば、私が聞いた話では、前述の乳がんの場合、熟練した検査者の場合は数ミリ程度でも発見できる一方で、慣れていない検査者の場合は1センチでも見落とすことがあり得るそうです。
人命にかかわる診断では、あってはならないことですし、信じたくはありませんが、このような病変が見落とされる可能性があり得るというのは、非常に恐ろしいことだと思います。
商標調査
ところで、この話から私は、「商標調査」を直ちに思い浮かべました。
商標調査と超音波診断には、共通点があるように思います。
弁理士の行なう商標業務において、商標調査ほど、調査を実施する弁理士の実務レベルや経験値が問われるものはないと私は考えています。
当然ながら、商標に精通した弁理士が、「J-PlatPat」の「称呼検索」で、調査対象商標だけを入力・検索して、調査を終了することはありません(と信じたいところですが、さほど経験もなく「商標専門」と名乗る弁理士も中にはいますので、実際のところはわかりません。)。それだけでは、「もれ」(超音波診断でいうところの「見落とし」)が出る可能性があることを、経験上熟知しているからです。
商標に精通した弁理士の多くは、自らの知識・経験に基づき、調査対象商標の類似ケースを先に想定し、それを含めた上で、「あり得る全パターンの検索式」を、通常は複数のデータベースを用いて調査しているものと思います。ですので、当事務所もそうですが、商標調査には通常それなりの時間を要しますし、料金との割りが合わないのが普通です。しかし、そうであっても、依頼人にとっては大切な商標であり、事業で安心・安全に使うためにも、「見落とし」は決して許されませんので、可能な限りの完璧を目指して、妥協することなく全力で調査に取り組むわけです。
商標業務をあまりやっていない弁理士の方々が、どのように商標調査を行なっているかは知る由もありませんが、おそらく我々でいうところの「簡易調査レベル」で終わっているのではないかと予測されます。
たしかに、商標調査は、あまり経験のない弁理士が実施しても、調査対象と「同一の商標」と「あきらかに類似の商標」については、まず検出できると思います。一方で、探すのが難しいのが、普通の検索式では検出されないような「類似とされるかもしれない商標」です。これが一番「見落としやすい」ところです。
商標専門の弁理士は、この「類似とされるかもしれない商標」を見落とさないよう、頭を使って丁寧に拾っていくわけですが、実際の審査においては、これらが「非類似」と判断されるケースの方が、確率としては当然高くなります。
ですから、あまり経験のない弁理士による商標調査が、本当は注意すべき商標を見落としていたとしても、結果として審査で引用されなかったことで、調査の結論としては正しくなったということは、多々あるのではないかと予測されます。超音波診断で実は見落としていたけれど、癌ではなく良性腫瘍だったから、「異常なし」という診断結果としては正しかったというところでしょうか。
たとえ、審査では非類似と判断されたとしても、「類似とされるかもしれない商標」を押さえておくことは重要なプロセスとなります。これらは、使用可能性や、採用した場合のトラブルを事前考慮する要素となるからです。当事務所では、依頼人が安全・安心に、トラブルなく商標を使えることに特に重きを置いていますので、こだわるところでもあります。商標は、「商標登録さえできれば良い」わけではありません。
依頼人の立場からすると、手元に残るのは調査報告書だけですので、調査を実施した弁理士の調査力はわかりにくいかもしれません。しかし、報告書で〇となっていたのに、まったく言及されていなかった類似商標が審査で引用されたような場合は、その弁理士の調査力を疑った方が良いと思われます。(逆に、報告書で登録できないとなっていたのに、登録されたような場合は、調査力ではなく実務力を疑うべきでしょう。)
商標調査のご相談は、商標専門の弁理士へ!
前述の乳がんを例としても、最近では、
「乳がん検診は、乳がん専門医へ!」
「乳がん検査は、乳がん専門クリニックへ!」
などと言われることが多いようです。
やはり、適切な診断には専門性が重要となる分野なのでしょう。
一見わかりにくいですが、商標業務も同じことが言えると思います。
「商標調査のご相談は、商標専門の弁理士へ!」
「商標登録のご依頼は、商標専門の特許事務所へ!」
ぜひ、ご検討されることをオススメいたします。