AIは弁理士の仕事を奪うのか?
(2017年11月17日)
<新着コラム> by 永露祥生
2017年11月16日付けのYahooニュースで、興味深い記事が掲載されていました。
日本弁理士会の梶副会長が、「AI(人工知能)が弁理士の仕事を奪う」という報道に、異議を唱えたというのです。
当該記事によれば、今年9月には日本経済新聞が「弁理士業務の92.1%がAIで代替可能」であると報じたとのことで、やはり多くの弁理士にとっては気になる話ではないかと思います。
そこで、現時点での私個人の見解について、まとめてみたいと思います。
なお、私は商標弁理士ですので、主に商標実務の観点からのお話になります。
AIに商標実務が可能なのか?
「AI(人工知能)」が進歩すれば、弁理士の仕事の中でも、「誰がやっても同じになるような性質のもの」については、たしかに代替可能かもしれません。たとえば、商標権の更新申請手続や、名称・住所の表示変更申請手続などが、該当すると思います。
しかし、梶副会長も述べているように、弁理士業務のほとんどは、「人間味が必要な仕事」であって、AIが簡単に代替できるものではないと考えます。
すなわち、弁理士業務のほとんどは、「誰がやっても同じ」にはなりません。
たとえば、商標登録にしても、依頼人のニーズをヒアリングした上で、どのような態様の商標で、どのような商品・役務について登録するかを、自社やライバル会社の登録状況・使用状況も考慮しつつ、決めていく必要があります。私には、これをAIが代替できるとは到底思えません。
そして、もっともAIに無理だろうと考えるのは、「商標の類似」の判断です。
たしかに、これまでの審査・審決・判決の例をAIに学習させることで、形式的な類否判断は完璧にできるかもしれません。
しかし、実質的な商標の類否は、単にデータとして抽出可能な外観・称呼・観念だけではなく、指定商品や指定役務との関係性や、実際の取引の実情等の要素までも踏まえた上で行なう必要があるものです。人間である弁理士や、審査官・審判官、裁判官が、さまざまな論理や理屈を考えに考え抜いて、結論が導き出されるものです。
AIに、「その商標の使用が商標的使用か」という点がわかるでしょうか?
また、AIに、指定商品や指定役務の内容まで理解できるのでしょうか?
私は、到底無理だろうと考えます。
そもそも、商標実務には「センス」が必要になります。
普段生活をしている中で、思わぬところからの発想で、問題解決の糸口が見付かったりもします。AIがこのような「センス」を持つことは難しいでしょう。これができるAIが将来生み出されるほどであれば、弁理士業務どころか、世の中の仕事のほぼすべてがAIで代替可能なことになろうかと思います。
今、弁理士がAIよりも懸念すべきこと
というわけで、少なくとも商標実務においては、「弁理士業務の92.1%がAIで代替可能」というのは、とんでもない誤解だと考えます。
多くの弁理士は、自分の仕事がそんなに簡単でないことを理解しているはずです。
このような報道を見て、リアルに危機感を持つ弁理士は、ほとんどいないでしょう。
問題なのは、「外部から弁理士業が簡単だと思われている」ことかもしれません。
これはもしかすると、インターネット上で格安料金で依頼を受けている特許事務所が多く見受けられることが一因かもしれませんし、そもそも弁理士業務が一般的に理解されていないことによるのかもしれません。実際のところは、正直わかりません。
我々弁理士は、「弁理士の仕事は簡単」だとか「誰がやっても同じになる」といった誤解を、まずは一般の方々から払拭することこそ、AIの脅威を恐れる前にやるべきことかもしれません。