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商標審査基準の改訂(改訂第13版)③
(2017年4月10日)

<新着ニュース> by 永露祥生

今回も、平成29年4月1日より適用されている「商標審査基準〔改訂第13版〕」について、改訂ポイントのレビューをいたします。なお、あくまで当事務所の弁理士によるレビュー・見解であることを予めご了承の上、ご覧ください。

今回は、改訂後の商標法第4条第1項第8号について見てみましょう。

商標法第4条第1項第8号は、「他人の肖像又は他人の氏名若しくは名称若しくは著名な雅号、芸名若しくは筆名若しくはこれらの著名な略称を含む商標」については、その他人の承諾を得ない限り、商標登録が認められないことを規定しています。

今回の改訂では、文章構成があらためられ、本号に該当する「他人」の範囲や、著名性の判断基準等が明記されました。


各項目のレビュー

改訂後の審査基準では、「他人の肖像又は他人の氏名若しくは名称若しくは著名な雅号、芸名若しくは筆名若しくはこれらの著名な略称を含む商標」について、主要語の解釈を6つの項目で解説しています。

1.「他人」について

「他人」とは、自己以外の現存する者をいい、自然人(外国人を含む。)、法人のみならず、権利能力なき社団を含む。

改訂前の第12版では、『本号でいう「他人」とは、現存する者とし、また、外国人を含むものとする。』とされていたところ、第13版では、これに法人や権利能力なき社団が含まれることが明記されました。なお、運用自体にはこれまでと変更はないでしょう。

2.「略称」について

(1) 法人の「名称」から、株式会社、一般社団法人等の法人の種類を除いた場合には、「略称」に該当する。なお、権利能力なき社団の名称については、法人等の種類を含まないため、「略称」に準じて取り扱うこととする。

(2) 外国人の「氏名」について、ミドルネームを含まない場合には、「略称」に該当する。

改訂前の第12版では、「略称」の解釈について規定がなかったため、これが明記されました。解釈自体としては、これまでの実務や裁判例を踏襲したものと考えられます。

なお、個人事業の場合などの「屋号」がどのように取り扱われるかが全体からも明らかではありませんが、『権利能力なき社団の名称については、法人等の種類を含まないため、「略称」に準じて取り扱うこととする』と上記に規定されていることが参考になりそうです。

3.「著名な」略称等について

他人の「著名な」雅号、芸名、筆名又はこれら及び他人の氏名、名称の「著名な」略称に該当するか否かの判断にあたっては、人格権保護の見地から、必ずしも、当該商標の指定商品又は指定役務の需要者のみを基準とすることは要しない。

「著名かどうか」の判断においては、「人格権保護の見地から、必ずしも、当該商標の指定商品又は指定役務の需要者のみを基準とすることは要しない」と明記されました。

改訂前の第12版では、『本号でいう「著名」の程度の判断については、商品又は役務との関係を考慮するものとする。』とされていましたが、必ずしもそれらの指定商品又は指定役務の需要者のみを基準とするわけではない旨を、明らかにしたものと思われます。

4.「含む」について

他人の名称等を「含む」商標であるかは、当該部分が他人の名称等として客観的に把握され当該他人を想起・連想させるものであるか否かにより判断する。
 (例) 商標「TOSHIHIKO」から他人の著名な略称「IHI」を想起・連想させない。

周知商標を含むかどうかという判断基準に似た規定が追加されたと考えられます。
よりわかりやすい例で言えば、「IKKO」が著名であっても、「RIKKOS」とか「IKKOKU」といった商標は本号に該当しないということでしょう。

5.自己の氏名等に係る商標について

自己の氏名、名称、雅号、芸名、若しくは筆名又はこれらの略称に係る商標であったとしても、「他人の氏名若しくは名称若しくは著名な雅号、芸名若しくは筆名若しくはこれらの著名な略称」にも該当する場合には、当該他人の人格的利益を損なうものとして、本号に該当する。

特に真新しい点はない規定です。
自分の氏名や名称等であっても、同じような他人が存在していれば承諾が必要です。

6.「他人の承諾」について

「他人の承諾」は、査定時においてあることを要する。

第13版にて新たに加えられたものです。
従前の裁判例を踏襲した規定と思われ、「たとえ出願時に承諾があっても、査定時に承諾がなければダメですよ」ということを明らかにしたものと考えられます。

商標法第4条第1項第8号については以上です。
なお、当然ながら、これに該当する商標が、他の拒絶理由にも該当する場合もあります。たとえば、自然人が「株式会社」、「合名会社」、「合資会社」、「合同会社」、「(株)」の文字を含む商標を出願した場合や、法人が自己の商号と異なる商号を自己の商標として採択・使用した場合には、第4条第1項第7号に該当するものと判断するとされています(商標審査便覧42.107.36)。