商標審査基準の改訂(改訂第13版)②
(2017年4月4日)
<新着ニュース> by 永露祥生
今回より、平成29年4月1日より適用されている「商標審査基準〔改訂第13版〕」について、改訂ポイントのレビューをいたします。なお、あくまで当事務所の弁理士によるレビュー・見解であることを予めご了承の上、ご覧ください。
まずは、改訂後の商標法第4条第1項第7号について見てみましょう。
ご存じのように、商標法第4条第1項第7号は、「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」について規定されています。
今回の改訂では構成があらためられ、「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」に該当する場合はどのようなものか、また「本号に該当する例」が、それぞれ項目立てられ説明されています。
公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標とは
まず、「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」とは、以下のような場合が該当すると説明されています。
なお、非道徳的若しくは差別的又は他人に不快な印象を与えるものであるか否かは、特に、構成する文字、図形、記号、立体的形状若しくは色彩又はこれらの結合、音に係る歴史的背景、社会的影響等、多面的な視野から判断する。
(2) 商標の構成自体が上記(1)でなくても、指定商品又は指定役務について使用することが社会公共の利益に反し、社会の一般的道徳観念に反する場合。
(3) 他の法律によって、当該商標の使用等が禁止されている場合。
(4) 特定の国若しくはその国民を侮辱し、又は一般に国際信義に反する場合。
(5) 当該商標の出願の経緯に社会的相当性を欠くものがある等、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ない場合。
(1)から(4)については、従来の内容を再構成したものでしょう。
ただ、(1)については、「非道徳的」という語が新たに追加されています。
注目すべきは、(5)の「当該商標の出願の経緯に社会的相当性を欠くものがある等、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ない場合。」です。これは近年の裁判例を踏まえて、新たに追加されたものと思われます。
ここで、「登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ない場合」というのは、かなり広い解釈が可能と言えますので、拒絶理由だけでなく、無効理由や異議理由としての主張が乱発されることも懸念されます。どの程度までがこれに該当するのか、今後の審査や審決のさらなる蓄積が待たれるところです。
商標法第4条第1項第7号に該当する例
本号に該当する例として、以下のように挙げられています。
② 「○○士」などの文字を含み国家資格と誤認を生ずるおそれがある場合。
③ 周知・著名な歴史上の人物名であって、当該人物に関連する公益的な施策に便乗し、その遂行を阻害する等公共の利益を損なうおそれがあると判断される場合。
④ 国旗(外国のものを含む)の尊厳を害するような方法で表示した図形を有する場合。
⑤ 音商標が、我が国でよく知られている救急車のサイレン音を認識させる場合。
⑥ 音商標が国歌(外国のものを含む)を想起させる場合。
⑤と⑥については、第12版でも挙げられていました。第13版では、①から④までが新たに追加されたと言えます。いずれも、審査運用上はこれまでと変わっていないはずですが、今回の改訂でわかりやすく審査基準に明示したものと考えられます。
なお、①から③については、「誤認を生ずるおそれがある」や「公共の利益を損なうおそれがある」という要件がありますので、逆に言えば、このようなおそれがなければ、商標登録が認められる余地もあることになります。しかし、このような商標を採用して登録できたところで、将来的にトラブルに巻き込まれる可能性が高いことは簡単に予測できますので、特別な理由がなければ避けることをお勧めいたします。