| サイトマップ | | プライバシーポリシー |

お問い合わせはこちら

任天堂株式会社がマリカー社を著作権侵害等で提訴
(2017年2月27日)

<新着コラム> by 永露祥生

すでに大きく報道されていますが、著名なゲーム会社である任天堂株式会社が、株式会社マリカーと代表取締役に対し、不正競争行為および著作権侵害行為を理由として、その差止めと損害賠償を求めて、東京地方裁判所に訴訟を提起したということです。
(参考:https://www.nintendo.co.jp/corporate/release/2017/170224.html)


株式会社マリカーは何をしたのか?

マリカー社は、公道カートのレンタルサービスを主な業務としている企業のようです。

上記ニュースリリースによれば、マリカー社が、カートレンタルサービスを提供するにあたって、①任天堂が製造販売するレースゲームのシリーズとして広く知られる「マリオカート」の略称である「マリカー」の標章をその会社名等として用いていること、また、②任天堂の「マリオ」等の著名なキャラクターのコスチュームを貸与等した上、そのコスチュームが写った画像・映像を許諾なく宣伝・営業に利用していることが、不正競争行為および著作権侵害行為に該当すると主張されています。

上記①については不正競争防止法違反を、上記②については主に著作権法違反を理由とするものであると考えられます。


本事件で予測される争点

一般の人々にも興味のあるゲーム分野の事件であるためか、ニュース番組でも大きく取り上げられ、ブログ記事などのネタにしている方も多いようです。それらの中には、投稿者が「勘違い」しているものも少なくない状況ですが、本事件での主な争点は著作権と言うよりは、不正競争防止法の話によるところが大きいのではないかと個人的には思われます。著作権侵害については、論点を多く含むと思われることから、原告としても予備的な位置づけなのではないでしょうか。

なお、現時点の情報から予測される争点は、以下のようなものがあるでしょう。

1.「マリカー」は、任天堂の周知または著名な商品等表示といえるか。
 2.周知な商品等表示といえる場合、需要者に混同が生じるか。
 3.マリカー社の「マリカー」の使用に不正の目的があるか。
 4.キャラクターコスチュームに著作物性があるか。
 5.コスチュームを身に付けた姿、また、その姿でカートに乗る姿が、
  キャラクターを複製・翻案する行為といえるか。
 6.コスチュームを身に付けた姿、また、その姿でカートに乗る姿を画像や動画で
  あらわす行為が、キャラクターやゲーム画面を複製・翻案等する行為といえるか。
 7.同一性保持権の侵害の成否について。
 8.著作権侵害が否定された場合の民法上の不法行為に基づく損害賠償の成否。


私見~裁判所における著作権侵害の判断に期待~

本事件における著作権侵害主張の根拠理由について突き詰めれば、キャラクターコスチューム自体の著作物性や、いわゆるコスプレ行為の法的問題点にも関連すると考えられます。いずれも、著作権法の分野ではしばしば論点となるため、仮にこのまま判決まで出されれば、裁判所がどのような考え方、判断をするのかが楽しみなところです。

ただ、一般的な見解では、(現時点での情報のみに基づけば)本事件における著作権侵害成立は難しいのではないかと考える専門家も少なくないと思います。この点、世界的キャラクターと言える「マリオ」などの知名度や全身姿の認知度が、どの程度考慮されるのかが注目されます。

いずれにしても、マリカー社がこのようなビジネスを許諾なく堂々と行っていたことは、知財のリスク意識が低いと言わざるを得ません。知財や法律に詳しくない一般の人々でも、「さすがにマズイんじゃないの?」と感覚的にわかることではないでしょうか。

マリカー社によれば、「弁護士や弁理士に相談した」とのことですが、それが事実であれば、あまりにも法律に偏った判断のように思います。商標の世界でもそうですが、もっとも大事なことは争って最後に勝つことではなく、そもそもこのようなトラブルが生じないようにすることです。IT化の進んだ現代社会ではありますが、その行為によって「相手はどう感じるか、どう考えるか」を感じ取るセンスを忘れてはならないでしょう。