著作権法改正検討(電子化した書籍の全文検索サービス)
(2017年2月13日)
<新着コラム> by 永露祥生
報道によれば、電子化した書籍についての全文検索サービスを円滑化すべく、著作物の電子化や配信を権利者の許諾なくできる範囲を広めるための著作権法改正が検討されているとのことです。
現在、日本では著作権法によりほぼ機能しておらず
電子化した書籍の全文検索サービス自体は、すでにグーグル社が世界的に開始しているようです。しかし、日本では、事業において書籍を電子化することも、検索結果の一部の文章をネット送信することも著作権侵害となることから、現在、日本の書籍の大半については本文を読めないようにしているとのことです。
関連団体は反対の姿勢
従来から、日本新聞協会などの関連団体は、このような著作権の効力を弱めるような規定を作ることには反対してきたようです。しかし、文化庁の著作権分科会による検討の結果、今回のような方向性を支持するに至ったとのこと。なお、著作権者に不利益が出ないよう、たとえば、辞書の各項目や俳句などの短い著作物については全部が表示されないようにするといった措置がとられる予定です。
私見~「著作権者の不利益」とは、売り上げ減少だけではない~
世の中の書籍が電子化され、これが全文検索できるようになれば、利用者にとっては非常に便利になるのは間違いありません。
たとえば、「ロシアの並行輸入と商標権の問題」について知りたいと思った時、現在なら本屋さんで商標に関する書籍を1冊1冊パラ読みして、該当する記載箇所がある書籍を購入するという流れになるかと思います。一方で、全文検索サービスが可能となれば、本屋さんに出かける前にキーワード検索を行なって、該当する記載がある書籍を事前に知ることができるでしょうから、大幅に時間を短縮できると言えます。また、そのままインターネット通販で注文すれば、そもそも本屋さんに行く手間も省けます。
そうすると、当該サービスが書籍の購入機会を奪ってしまうという影響は、たしかにあまりないのかもしれません。しかしながら、「著作権者の不利益」というのは、何も売り上げに関するものだけではないという点には、注意が必要であると思います。
たとえば、出版した書籍の内容に、なんらかのミスで誤記が含まれていた場合。紙媒体でしか流通しない書籍であれば、増刷や再版の際に修正をすることで、ある程度時間が経てば「なかったことにできる」と言えます。しかし、電子化され恒常的に全文検索サービスができる状態に至っていると、相当な時間を経てもなお、その誤った内容で利用者が判断・理解する危険性があるでしょう。現在のようなネット社会では、これが原因で、権利者の評判や信用に傷が付くということも考えられます。
したがって、事業者側(たとえば、グーグル社)は、このようなサービスを行なうのであれば、著作者からの修正・削除依頼には即刻対応できるような仕組みを持つことが必須だと思われます。この修正・削除依頼について、手続が煩雑であったり、当該事業者の審査をいちいち経るなどということになれば、「人の著作物を勝手にコピーして検索できるようにしときながら、けしからん!!」と思われても仕方ないように思います。
法律書などでは、法改正の内容も含まれますから、上記と同じ状況となり得ます。たとえば、電子化して全文検索ができるようになった書籍が法改正前の内容で、これが恒常的に検索可能であれば、利用者に「この書籍の著作者はウソを書いている」と思われるかもしれません。そうすると、その著作者の名誉が理不尽に傷付けられるおそれも十分にあります。小説や一般書であれば内容が変わることはないでしょうから良いですが、このように内容が時代によって変わってくる専門書の取り扱いは、特に気を付ける必要があるでしょう。
著作権法の分野では、当たり前ですが、権利者と利用者の声の大きさを比較すれば、利用者の声の方が圧倒的に大きいに決まっています。最近の著作権法改正等の議論では、なんとなくですが無駄に「社会の声(要望)の大きさ」を意識している傾向があるように、個人的には感じられます。
文化の発展という面から、著作物の利用を促進させることはもちろん必要ですが、本当にそれが国民の創作性やクリエイティブマインドを高めることに資するものなのか、それとも、利用する誰かが得するだけなのか、といった点やそのバランスをよく考える必要があると感じています。
なお、本著作権法の改正は、来年1月以降の施行を目指すようです。