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AI(人工知能)と著作権(2016年8月4日)

<新着コラム> by 永露祥生

最近、「AI(人工知能)」が話題になっています。本屋さんに行くと、人工知能の特設コーナーを見かけることもあり、世の中の関心が非常に高いことがわかりますね。

さて、知財分野でも、このAIに関する議論がホットです。内閣総理大臣を本部長とする知的財産戦略本部は、本年5月9日に「知的財産推進計画2016」を策定しました。そこでは、政府全体として推進すべき8つの施策を挙げており、その1つとして、「AI創作物や3Dデータ、創作性を認めにくいデータベース等の新しい情報財の知財保護の必要性やあり方について、具体的に検討する」と述べられています。簡単に言ってしまうと、「AI創作物の保護や方法についてちゃんと考えなきゃね!!」ということですね。

このコラムをご覧いただいている方は、おそらく知財に詳しい方々がほとんどだと思いますので、釈迦に説法ですが、現行の著作権法では、「著作者」は「著作物を創作する者」とあり、著作者となれるのは「人間」であることが前提です。したがって、動物園にいるチンパンジーとかゾウが、一生懸命に絵を描いても、著作者にはなれませんから、著作権を有することはできません。無理やり著作権を認めるなら、「チンパンジーやゾウを操っている人間が、これらの動物を道具として利用して創作した」とする考え方もありますが、基本的に著作権は認められないというのが、一般的な見解です。

AIは、そもそも実体を持ちませんので、ある意味チンパンジーよりも著作権が認められにくいということが感覚的にもわかると思います。現行の著作権法の下では、99%認められないでしょう。しかし、今後、さらなるAI技術の発展によって、AIによる創作物が増大することが予測され、わが国の経済競争力にも大いに影響があると考えられることから、国策としても「なんとかして保護をせねば」ということなのでしょう。

AIと著作権については、各所でいろいろと議論されているようですが、私個人の見解としては、「著作権法の枠組みの中でAI創作物の保護を図るのは、やはり難しい」と考えています。そもそも、仮にAI創作物に著作権を認める場合、「誰が権利主体になるのか」という問題が切実です。主体がないものに著作権を認めるとなると、著作権法の根底となる原則的な部分を変えていかなくてはいけないことになってしまいます。

この点について、2016年7月30日のYahooニュースの記事で中野秀俊弁護士は、AIに3段階のフェーズで関わっている人に権利を認めてはどうかという見解をされています。すなわち、「技術開発者」、「機械学習をさせる人」、「それを使ってコンテンツを広める人」などに著作権を付与してはどうかというものです。非常に納得できる考え方で、合理的だと思います。ただ、これを著作権法の規定に反映するには、現実的にはやはり難しいと言わざるを得ません。

現行の著作権法においても、著作権の享有主体が創作者以外となる特別な場合がいくつか定められています。たとえば、職務著作や映画の著作物の場合です。ただ、いずれの場合も、「著作者となる人はいるけれども、著作権は別の人が持ちますよ」というものですから、そもそも著作者が存在しないAIの創作した著作物について、自動的に別の人が著作権を持つという構成には無理があります。

また、議論の内容としてはAI著作物の保護のしかたに集中しているようですが、利用の面からも課題を解決していく必要があると思います。仮に、AI創作物に著作権が認められるとしても、これを利用したい人はいったい誰に許諾を求めればいいのでしょうか。職務著作や映画の著作物であれば、著作権者が本来の著作者と異なっていても、なんとか連絡がつくものと思われますが、これが「技術開発者」、「機械学習をさせる人」、「それを使ってコンテンツを広める人」等となれば、コンタクトをとるだけで大変な労力を要するのではないでしょうか。そもそも、誰かがAI創作物の著作権を侵害した場合、いったい誰が権利行使をするのかという問題もあります。

いくらAI創作物に著作権を認めたところで、利用許諾を求める主体がいない(わからない)、権利行使をする主体がいない、ということなら、実質的に保護されていないも同然です。むしろ、かえって著作物の流通を阻害する要因になるような気がします。ただ、だからと言って、これらの保護がまったく必要ないとも思えません。関係者の皆様におかれましては、著作権法以外での保護の枠組みも検討しつつ、今後も引き続き議論を重ねていただきたいと願います。

ところで、このコラムを書いていて、昔、「自動作曲ソフト」というものがあったのを思い出しました。もう15年くらい前になりますが、たしか曲調やジャンルなどを簡単に設定して、「作成」ボタンを押すと自動的に音楽データができあがるパソコン用のフリーソフトがあったのです。おそらく、一定の法則に基づきながらも適当(ランダム)に音符を配置するプログラムというのが実体でしょう。作成するたびに、とても聞けない(というか、そもそも体を成していない)ようなヘンテコな曲ができることもあれば、意外と聞けるような名曲(?)ができることもありました。曲の出来は、ある意味「運しだい」なのです(笑)。

当時、私はまだ学生でしたが、この「自動作曲ソフト」で作った(というか、たまたまできた)曲を、自分の個人ホームページの1コーナーに掲載していました。その時、非常に悩んだのが、「この曲って、誰に著作権があるんだろう?勝手にホームページに載せて大丈夫なんだろうか?」ということでした。
 「曲を作ったのはソフトウェアだから、ソフトを作った人が著作権者?」とか「でも、実質的にランダムで作られるわけだから、この曲自体の完成にソフトを作った人は関係ないよね」とか「じゃあ、いろいろ設定してボタンを押した自分が著作権者?」とか「でも、それって創作じゃなくて単なる運じゃん!?」とか、いろいろ考えましたが、結局答えはでませんでした。遊んでばかりいた学生にしては、意外とよく考えていたなと今にして思います(笑)。
 最終的には、ソフトの利用規約に「作成した曲データはご自由に使っていただいて結構です」となっていたので、「まぁ、載せても問題ないか」ということで載せていましたが・・・。

AI創作物の著作権も、これと同じような問題を抱えているといえます。考えてみれば、15年も前からこのような問題点が潜在していたにもかかわらず、これまで本格的に議論されてこなかったというのも不思議ですね・・・。