フランク三浦事件(2016年4月15日)
<新着コラム> by 永露祥生
『スイスの高級腕時計「フランク・ミュラー」のパロディーで、
芸能人やスポーツ選手の愛用者も多い腕時計「フランク三浦」が、
12日に知財高裁が下した訴訟の判決で商標登録を改めて認められた。
(Yahoo!ニュース)』
このような報道が、新聞やニュース番組で大きく取り上げられています。
今回は、この「フランク三浦事件」について、見ていきたいと思います。
まず、事件の経緯ですが、「フランク・ミュラー」側が、
指定商品を第14類「時計,宝玉及びその原石並びに宝玉の模造品,キーホルダー,身飾品」として、
平成24年8月24日に登録された商標「フランク三浦」(商標登録第5517482号)に対し、
平成27年4月22日に無効審判を請求したところ、特許庁はこれを認め、
平成27年9月8日付で無効審決をした、ところから始まります。
その後、これを不服として、「フランク三浦」側が、知財高裁に審決取消訴訟を提起したのが本事件です。
(判決文:http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/835/085835_hanrei.pdf)
判決では、特許庁の無効審決が一転、「フランク三浦」に無効理由はないとしてこれが取り消されました。
なお、原告(フランク三浦側)は、「株式会社ディンクス」、
被告(フランク・ミュラー側)は、「エフエムティーエム ディストリビューション リミテッド」です。
判決では、原告側の登録商標「フランク三浦」と、被告側の引用登録商標①「フランク ミュラー(標準文字)」、
②「FRANCK MULLER」、③「FRANCK MULLER REVOLUTION(※マドプロ登録)」について、
それらの類似性や、出所の誤認混同可能性が検討されています。
まず、「フランク三浦」と引例①「フランク ミュラー」については、
称呼の類似性は認められたものの、外観と観念が大きく異なることから、
商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるとはいえないとして、
商標非類似であると判断されました。
被告は、「フランク三浦」が、フランク・ミュラーと経済的、組織的に何らかの関係を有する者の
業務に係る商品であるかのように、その出所について混同を生ずるおそれがある旨を主張しましたが、
裁判所は、上記のように観念や外観において大きな相違があることや、
『被告商品は,多くが100万円を超える高級腕時計であるのに対し、
原告商品は,その価格が4000円から6000円程度の低価格時計』であることを考慮し、
「取引者や需要者が、双方の商品を混同するとは到底考えられない」としました。
なお、引例②及び③との類似性についても、同様の理由により非類似と判断されています。
また、類似性(商標法4条1項11号)だけでなく、
4条1項10号、15号、19号の該当性も否定されています。
(※以下、雑感です)
本事件でまず気になったのは、「フランク三浦」側は、
自らの商標がパロディであることを否定していないことですね。
本裁判においても、『そもそも,原告商品は、原告が考案した巧妙なパロディにより需要を
獲得しているのであるから、被告使用商標へのただ乗り(フリーライド)ではない。」と、言い切っています。
また、冒頭のYahoo!ニュースの記事によれば、原告社長が、
「もともとは売れんでもええわってふざけて作っていたんですが、
(販売の)大手さんから取り扱いたいとお願いをいただいて。
それならまじめにやりましょうということで登録を出したんです」とも言っています。
こういった、「明らかにパロディ」と言えるような事情があったからでしょうか、
特許庁の審決では、「フランク三浦」と「フランク ミュラー」の類似性(4条1項11号該当性)
が認められたようです。
この点、多くの商標実務家は、意外に思ったのではないでしょうか。私もそうでした。
最近の特許庁の類否判断傾向や、一般的な商標弁理士的な見解から見ても、
おそらく、ほとんどの人は、裁判所が判断したように、両商標は「非類似」と判断するのではないかと思います。
(何かで引っかけるとしても、少なくとも、11号ではないように思います。)
これを類似と認めた特許庁の判断からは、やはり「パロディ商標はよろしくない」
といった意向が読み取れる気がします。
ちなみに、「フランク三浦」が、パロディ商標であることを公言せずに、細々とやっていれば、
審判段階で、
「フランク三浦っていうのは、テリー伊藤とか、ダンディ坂野とか、ジャンボ鶴田とか、そういう類ですよ!!」
といった逃げ方(?)もあったのかもしれません・・・。
しかし、いずれにしても、本件のようにその後トラブルに巻き込まれる可能性を考えると、
私もパロディ商標については、否定的な見解です。採用は、よく考えてからの方がよろしいかと思います。
(パロディ商標に関する事件として、「KUMA事件」や「面白い恋人事件」等があるのは、ご存じの通りです。)
もちろん、パロディ商標は話題性も期待できますし、パロディ元商標の認知度の恩恵に預かれる、
といった事情もあるでしょう。今回のように、「結局、問題なかった」という結論になれば、
報道によってますます認知度も上がります。採択したくなる事業者の気持ちもわかります。
ただ、フランク・ミュラー側はおそらく、今後もあの手この手で対策してくるでしょうし、
商標を保護する目的とは、そこに蓄積された信用の保護であるという原点・本質に戻れば、
今回の事件については、実務家として考えさせられることが多くあるように思います。